リースバックした家が転売されたら住み続けられる?借地借家法31条の引渡しと民法605条の2

リースバック後に物件が転売されたときの条文を並べたアイキャッチ画像

リースバックで自宅を売ると、所有者は買い取った会社になります。そこで多くの人が気にするのが、その会社がさらに別の投資家へ物件を売ったらどうなるのか、という点です。契約した相手がいなくなったのだから、住み続ける約束も消えるのではないか、という不安です。

結論から言えば、賃貸借の対抗要件を備えていれば住み続けられます。根拠は借地借家法31条と民法605条の2で、どちらも条文に明確に書かれています。ただし例外と、家賃の振込先を間違えないための決まりがあります。ここでは条文に沿って順番に確認します。

先に結論

建物の賃貸借は登記がなくても、引渡しがあれば、その後にその建物について物権を取得した者に対して効力を生じます(借地借家法31条)。

対抗要件を備えた状態で不動産が譲渡されると、賃貸人たる地位は譲受人に移転します(民法605条の2第1項)。契約を結び直す必要はありません。

ただし所有権移転の登記をしなければ、新しい所有者は賃借人に対抗できません(同条3項)。家賃の請求が来ても、登記を確かめるまでは支払先を変えない、という判断が成り立ちます。

住み続けられる根拠は「引渡し」にある

賃借権は債権なので、本来は契約した相手にしか主張できません。ところが建物の賃貸借には特別の扱いがあります。借地借家法31条は次のように定めています。

「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。」

借地借家法 第31条(建物賃貸借の対抗力)

e-Gov法令検索に表示された借地借家法の条文。第31条の建物賃貸借の対抗力、第32条の借賃増減請求権が並んでいる
出典:e-Gov法令検索「借地借家法(平成三年法律第九十号)」(2026年9月19日に表示を確認)。

リースバックでは、売却したあとも同じ家に住み続けます。引渡しを受けた状態が途切れないため、この条文の要件は自然に満たされます。借家権の登記という重い手続きをしなくても、新しい所有者に賃借権を主張できる、ということです。

逆に言えば、まだ引っ越していない段階や、いったん退去してから再入居する段取りにすると、空白が生まれます。契約の形を決めるときは、引渡しの連続性が切れないかを確かめてください。賃貸借の種類そのものの違いは普通借家と定期借家で整理しています。

状況 対抗要件を備えているか 転売されたとき
売却後もそのまま住んでいる 備えている(引渡しが続いている) 新しい所有者に賃借権を主張できる
契約はしたが、まだ引渡しを受けていない 備えていない 物権を取得した者に対抗できない
いったん退去して後日入り直す予定 入居までは備えていない その間に転売されると不利になる
借家権の登記をしている 備えている 登記でも対抗できる(実務では少ない)

条文は「引渡しがあったとき」と書いており、住んでいる事実そのものを要件にしています。リースバックが他の賃貸借より有利なのは、売る前から住んでいて、売った後も住み続けるという性質上、この要件が最初から満たされている点にあります。

大家さんが自動的に入れ替わる

対抗要件を備えていると、物件が売られたときに何が起きるか。民法605条の2第1項は、賃貸人たる地位はその譲受人に移転すると定めています。賃借人の承諾は要りません。契約書を巻き直す必要もありません。

同条4項は、移転に伴って何が引き継がれるかも決めています。民法608条による費用の償還に係る債務と、622条の2第1項による敷金の返還に係る債務は、譲受人またはその承継人が承継します。つまり預けてある敷金は、新しい所有者に対して返還を求めることになります。

項目 転売後どうなるか 根拠
住み続けられるか 続けられる 借地借家法31条、民法605条の2第1項
賃貸借契約 結び直し不要 賃貸人たる地位が移転する
賃借人の承諾 不要 民法605条の3(合意による移転の場合も同じ)
敷金 新しい所有者が返還義務を承継 民法605条の2第4項
必要費の償還 新しい所有者が承継 民法605条の2第4項、608条
家賃の請求 登記がなければ対抗できない 民法605条の2第3項

家賃の振込先はいつ変えるか

実務でいちばん間違えやすいのがここです。民法605条の2第3項は、賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができないと定めています。

「第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。」

民法 第605条の2第3項

登記が済んでいない段階で「今月から当社に振り込んでください」という通知が届いても、その主張は賃借人に対して効力を持ちません。逆に、登記が済んでいれば新しい所有者へ支払う必要があります。判断の手順は単純です。

まず確かめる

登記事項証明書を取り、所有権移転の登記が済んでいるかを見ます。誰でも取得できます。

登記が済んでいる

賃貸人たる地位の移転を対抗されます。通知された口座へ支払います。

登記がまだ

移転を対抗されません。従来の相手へ支払ったうえで、登記が済んだら切り替えます。

判断に迷う

供託という方法もあります。争いがあるなら早めに専門家へ相談してください。

転売の通知が来たときの確認手順。民法605条の2第3項の対抗要件をもとに整理しました。

家賃を滞納すると立場が一気に弱くなります。支払先が分からないという理由で止めてしまうと、結果的に滞納として扱われる可能性があります。滞納がもたらす効果はリースバックの家賃を滞納するとどうなる?で条文とともに整理しています。

地位が移らない例外がある

605条の2第2項は例外を置いています。不動産の譲渡人と譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨と、その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨を合意したときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転しません。

この形をとると、住んでいる人から見た大家さんは元の会社のままで、その会社が新しい所有者から物件を借りている、という二重構造になります。サブリースと呼ばれる形です。

条文は続けて、譲渡人と譲受人またはその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は譲受人またはその承継人に移転すると定めています。つまり上の階層の契約が切れれば、大家さんは所有者に戻ります。

賃貸人になるのは誰か 住んでいる人への影響
原則(605条の2第1項) 新しい所有者 登記後、支払先が新しい所有者に変わる
留保の合意(同条2項) 元の所有者(譲渡人) 大家さんは変わらない。契約関係は据え置き
上の契約が終了(同条2項後段) 新しい所有者へ移転 その時点で支払先が変わる
合意による移転(605条の3) 譲受人 賃借人の承諾は要らない

どの形になっているかは、届いた通知の書き方だけでは判断がつかないことがあります。所有権移転の登記の有無と、誰が賃貸人として請求しているかを並べて見ると、どの条文の話なのかが見えてきます。

占有を妨げられたときの手段

民法605条の4は、対抗要件を備えた不動産の賃借人が、第三者に占有を妨害されているときはその停止を、第三者が占有しているときは返還を、それぞれ請求できると定めています。賃借人が自分の名前で第三者に請求できる、という規定です。

リースバックで想定されるのは多くありませんが、転売が重なって関係者が増えたときの備えとして、条文が用意されていることは知っておいて損がありません。

よくある質問

転売されたら契約を結び直しますか

原則として不要です。賃貸人たる地位が譲受人に移転するため、賃貸借契約そのものは続きます(民法605条の2第1項)。

敷金はどちらに返してもらいますか

賃貸人たる地位が移転したときは、敷金の返還に係る債務も譲受人が承継します(同条4項)。

新しい所有者から家賃を請求されました

所有権移転の登記が済んでいるかを確かめてください。登記がなければ、移転を賃借人に対抗することはできません(同条3項)。

大家さんが変わらないと言われました

譲渡人と譲受人が地位を留保する合意をしている可能性があります(同条2項)。その場合、上の階層の賃貸借が終われば地位は譲受人へ移ります。

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