リースバックの現地調査では何を見られる?宅建業法35条の説明事項から逆算する

リースバックの申し込みをすると、担当者が家まで見に来ます。仮査定の金額が正式な条件に変わるのはこのあとなので、何を見られているのかが分からないまま当日を迎えると落ち着きません。ただ、調査の項目は担当者の好みで決まるものではありません。宅地建物取引業法35条が「契約前に説明しなければならない事項」を列挙しており、現地調査はその欄を埋めるための作業です。条文から逆算すれば、何を見に来るのかはほぼ分かります。

この記事の要点

  • 現地調査は、重要事項説明書に書く欄を埋めるための調査です。項目は宅建業法35条1項の各号に対応しています。
  • 見られるのは建物のきれいさではなく、登記された権利・法令上の制限・私道の負担・ライフラインの整備状況といった、価格と取引可否を左右する事実です。
  • 既存の建物では、建物状況調査を実施したかどうかとその結果の概要も説明事項になっています(35条1項六の二)。
  • 過去に人の死があった場合の告知は、国土交通省が令和3年10月8日に策定したガイドラインで整理されています。売主は告知書への記載を求められます。
  • 知っていることを伏せると、契約後に条件の見直しや解除の話になります。先に言うほうが結果的に早いです。
  • 掃除の程度で査定額は動きません。用意すべきは書類です。

現地調査は「説明書の欄を埋める作業」

宅地建物取引業者は、買おうとしている人・借りようとしている人に対し、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして少なくとも一定の事項を記載した書面を交付して説明させなければなりません(宅建業法35条1項)。リースバックでは買主がリースバック会社なので、会社は自分が受け取る説明のためではなく、買主としてその物件を評価するために同じ項目を調べます。

宅地建物取引業法 第三十五条第一項(重要事項の説明等) 宅地建物取引業者は、……その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面……を交付して説明をさせなければならない。

e-Gov法令検索で宅地建物取引業法を表示した画面。昭和二十七年法律第百七十六号として目次と条文が表示されている
出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(昭和二十七年法律第百七十六号)。令和8年4月1日施行の版。

売る側がこの条文を読んでおく意味は2つあります。1つは、調査項目が法律で決まっているので、聞かれる内容をあらかじめ用意できること。もう1つは、リースバックでは売った家に住み続けるため、自分が借主として説明を受ける側にも回ることです。どちらの立場で何を受け取れるかは重要事項説明の範囲で条文ごとに整理しています。

35条の各号と、現地で確かめられること

条文の号を左に置き、それが現地・法務局・役所のどこで確かめられるかを並べます。当日の訪問で全部が終わるわけではなく、法務局と役所での調査が並行して進みます。

号 説明事項(条文の表現) 実際に確かめられること
一 登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名 登記事項証明書で、所有者・抵当権・差押えの有無を見る。名義が申込者と同じかどうかもここで分かる。
二 都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で政令で定めるものに関する事項の概要 用途地域、建ぺい率・容積率、防火地域、道路との関係。役所調査で確かめる。
三 私道に関する負担に関する事項 前面道路が私道か公道か。私道なら持分と負担金。
四 飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況 敷地内までどの設備が引き込まれているか。未整備なら見通しと特別の負担。
六 区分所有権の目的である場合の、敷地に関する権利・共用部分の規約の定め等 マンションなら管理規約、管理費・修繕積立金、滞納の有無。
六の二 既存の建物であるときの、建物状況調査の実施の有無とその結果の概要、設計図書・点検記録等の保存の状況 インスペクションを受けているか。図面や点検記録が手元にあるか。
七 代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及びその目的 リースバックでは賃貸借の敷金・保証委託料など。
八・九 契約の解除に関する事項、損害賠償額の予定又は違約金に関する事項 売買と賃貸借それぞれの終わり方。住み続ける条件に直結する。
十三 種類又は品質に関する契約不適合を担保すべき責任の履行に関する措置の概要 引渡し後の不具合を誰がどこまで負うか。個人が売主でも契約で定まる。

敷地の境界、隣地との高低差、擁壁の種類、越境物、前面道路の幅員とセットバックの要否といった、いかにも「現地を見る」項目は、二号と三号の裏付けを取るための作業です。飲用水・排水・ガスの引き込みは四号そのもので、供給者名や処理の方法まで記録されます。

ここで重要なのは、これらが査定額を上下させる要素だということです。境界が未確定、私道の持分がない、擁壁に問題がある、といった事情は、買主から見れば将来の費用とリスクです。掃除の有無は評価に入りませんが、境界標の有無は入ります。

建物状況調査(インスペクション)の扱い

2018年から、既存住宅の取引では建物状況調査についての説明が義務づけられています。

宅地建物取引業法 第三十五条第一項第六号の二 当該建物が既存の建物であるときは、次に掲げる事項 イ 建物状況調査(実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る。)を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要 ロ 設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況

条文が求めているのは「実施しているかどうか」と「している場合の結果の概要」です。実施していないこと自体は不利益ではありませんが、ロの「設計図書、点検記録その他の書類の保存の状況」は説明事項なので、手元に何が残っているかは必ず聞かれます。新築時の図面、確認済証・検査済証、リフォームの契約書や図面、シロアリ防除や給湯器交換の記録。これらがそろっている家は、買主から見て見えない部分の不確実性が小さくなります。

人の死に関する事案の扱いは、ガイドラインで整理されている

「近隣での事件性の聞き込み」のような項目が調査に入るのは、心理的な事情が取引に影響するためです。ここは判断が分かれやすかったため、国土交通省が令和3年10月8日に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。

国土交通省の報道発表資料、宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドラインを策定しましたのページ画面。背景とガイドラインの概要が表示されている
出典:国土交通省 報道発表資料「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました(令和3年10月8日)。

報道発表に書かれている整理は次のとおりです。宅地建物取引業者が媒介を行う場合、売主・貸主に対して過去に生じた人の死について告知書等に記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとされます。取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則として告げなくてもよいとされています。

賃貸借取引の対象不動産と、日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で、自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生した場合は、事案発生から概ね3年が経過した後は原則として告げなくてもよいとされています。ただし、経過した期間や死因にかかわらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は、告げる必要があるとされています。

売主の立場で押さえるべきは、調査が告知書への記載を求める形で行われることです。記載を求められたら、そこで書いた内容がそのまま判断材料になります。

当日までに用意しておくもの

片付けや掃除で査定額は動きません。用意する価値があるのは書類のほうです。

権利登記識別情報または登記済証

所有者であることの確認に使う。紛失している場合は司法書士による本人確認情報などで代替する段取りになるため、早めに伝える。

権利確定測量図・境界確認書

境界が確定しているかどうかは価格に直結する。無ければ「未確定」として評価される。

建物建築確認済証・検査済証、設計図書

35条1項六の二ロの「保存の状況」がそのまま説明事項になる。

建物リフォーム・修繕の履歴

いつ何をいくらで直したかが分かる書類。屋根・外壁・給排水は特に効く。

お金住宅ローンの残高証明書または返済予定表

残債が査定額を上回ると決済できない。順序は先に確かめておく。

お金固定資産税の納税通知書

評価額と、年度内の精算額の計算に使う。

建物マンションなら管理規約・長期修繕計画・管理費等の金額

35条1項六号の説明事項。滞納があれば必ず表に出る。

告知知っている不具合や事案のメモ

雨漏り、シロアリ、傾き、近隣との取り決め、過去の事案。告知書に書く内容を先に整理しておく。

書類がそろっているほど、調査から条件提示までの時間が短くなります。複数社に同じ条件で出すなら、書類も同じセットを用意しておくと比較が楽です。手順はリースバックの相見積もりにまとめました。住宅ローンの残債と抵当権の処理の順序はリースバックと抵当権で扱っています。

調査のあとに条件が変わることはある

問い合わせ段階で示される金額は、物件の所在地と築年数・面積程度の情報から出した概算です。現地・法務局・役所の調査で前提が変われば、買取価格も家賃も動きます。

  1. 問い合わせと仮の条件提示

    所在地、建物の種別、築年数、面積、住宅ローンの有無などから概算を出す。この段階では登記も役所も見ていない。

  2. 訪問による現地調査

    敷地と建物を実際に見る。売主へのヒアリングと告知書の記載もここで行われることが多い。

  3. 法務局調査

    登記事項証明書と公図、地積測量図を取り、権利関係と面積を確かめる。

  4. 役所調査

    都市計画法・建築基準法などの制限、道路の種別、上下水道の埋設状況を確かめる。

  5. 社内の決裁

    買取の可否、買取価格、家賃、買戻しの条件を担当者がまとめ、決裁を経て提示される。

問い合わせから正式な条件提示までの順序。概算が動くのは2から4で前提が変わったとき。

売却価格と家賃はセットで決まるため、片方だけが上がる形にはなりません。両者の関係と、概算に入っていない費用は見積もりシミュレーションに書いています。会社選びの段階で免許と行政処分歴を見ておきたい場合は国のサイトで確かめる方法を参照してください。

よくある質問

掃除や片付けをしておく必要はありますか

査定額を上げる目的では必要ありません。調査で見るのは権利関係と法令上の制限、設備の整備状況、建物の構造です。ただし、床下や天井裏、分電盤、給湯器の前に物が積まれていると確認できないため、見てもらう場所への通路は空けておくと当日が早く終わります。

知っている不具合を言わないほうが有利ですか

逆です。媒介の場面では、売主に対して告知書等への記載を求める形で調査が行われます。あとから判明した場合、契約不適合の責任や条件の見直しにつながります。35条1項十三号は、この責任の履行に関する措置の概要が説明事項であることを定めています。

仮査定と違う条件を出されたら断れますか

断れます。売買契約を結ぶまでは義務を負いません。複数社に同じ条件で出しておけば、提示が変わったときに比べる相手があります。

建物状況調査を受けていないと不利になりますか

実施の有無が説明事項であって、実施が義務ではありません(35条1項六の二イ)。実施していない場合は「実施していない」と説明されるだけです。ただし同号ロの書類の保存の状況は別に問われます。

過去に室内で親族が亡くなっています。伝える必要がありますか

ガイドラインでは、取引の対象不動産で発生した自然死や日常生活の中での不慮の死については原則として告げなくてもよいとされています。ただし買主から問われた場合は告げる必要があるとされているため、聞かれたら事実を答える形になります。判断に迷う事案は、告知書に記載したうえで担当者と確認するのが確実です。

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