先に結論
「リースバックで建て替えはできますか」という質問には答えが2つあります。売った家を自分の判断で建て替えることはできません。所有権が買主に移り、売主は借主になるからです。
いっぽう、別の家を建てるための資金をリースバックでつくることはできます。国土交通省も、住み替えや建て替え資金の確保を目的とした利用が増えていると説明しています。
資金づくりとして使うなら、決め手は家賃ではなく新しい家が完成するまで今の家に住めるかです。賃貸借契約が普通借家か定期借家か、買主が取り壊しを予定しているかで、住める期間の見通しが変わります。
「建て替え」の2つの意味を分けて考える

国土交通省は、リースバックを「住宅を売却して現金を得て、売却後は毎月賃料を支払うことで、住んでいた住宅に引き続き住むサービス」と定義しています。同じ報道発表のなかで、「近年高齢者世帯を中心に住み替え、建て替え資金の確保等を目的として、リースバックを活用した不動産取引が徐々に増加傾向にあります」とも述べています。
つまり建て替え資金をつくる手段としてのリースバックは、国が想定している使い方のひとつです。ただし同じ報道発表は、契約内容や将来の収支計画を理解しないまま契約したことによるトラブル例も見られると注意を促しています。
売った家を建て替えられない理由
契約が済んだ時点で、建物と土地の所有者は買主になります。売主は賃借人です。賃借人にできるのは借りた建物をそのまま使うことで、取り壊して建て直すことではありません。
建て替えを望むなら所有者である買主の許可が要りますが、買主にとって建て替えは物件の価値を左右する大きな判断です。賃借人の希望で認められることはまずありません。契約書に「大規模な改築・建て替えは不可」と明記されていることも一般的です。
リフォームや修繕はどこまでできるか
建て替えは無理でも、傷んだ場所を直すことはできます。ここは民法が役割を分けています。
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。(民法606条1項)
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。二 急迫の事情があるとき。(民法607条の2)
| やりたいこと | 誰の判断か | 根拠 |
|---|---|---|
| 建て替え(取り壊して建て直す) | 所有者である買主。賃借人の権限では不可 | 所有権が移っているため |
| 使用に必要な修繕 | 原則として賃貸人の義務 | 民法606条1項 |
| 賃貸人が直さないときの修繕 | 通知しても相当の期間内に直されないとき、または急迫の事情があるときは賃借人ができる | 民法607条の2 |
| 間取りを変えるようなリフォーム | 契約の定めによる。無断ではできない | 賃貸借契約の特約 |
| 退去時の原状回復 | 通常の使用による損耗と経年変化は除かれる | 民法621条 |
民法621条は、賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を定めていますが、通常の使用及び収益によって生じた損耗と経年変化は除くと明記しています。住み続けることで自然に古くなる分まで負担するわけではありません。負担区分の具体的な整理はリースバック後の修繕・原状回復は誰の負担?民法と国交省ガイドラインで負担区分を確認にまとめています。
建て替え資金をつくる目的でリースバックを使う場合、住むのは仮の期間です。それでも設備が壊れたときに誰が直すのかは契約書で決まります。短期のつもりでも、修繕の条項は読み飛ばさないでください。
住み続けられる期間は契約の種類で決まる
建て替え先の完成まで今の家に住めるかどうかが、この使い方の成否を分けます。ここを左右するのが賃貸借契約の種類です。

| 条文 | 定めている内容 | 建て替えを考えるときの意味 |
|---|---|---|
| 借地借家法26条 | 期間の定めがある建物賃貸借で、満了の1年前から6か月前までに更新しない旨の通知をしなかったときは、従前と同一の条件で更新したものとみなす | 普通借家なら、黙っていれば契約は続く |
| 借地借家法28条 | 貸主からの更新拒絶や解約申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければできない | 貸主の都合だけでは出ていく必要がない |
| 借地借家法38条 | 公正証書による等書面で契約するときに限り、契約の更新がないことを定められる。貸主はあらかじめその旨を記載した書面を交付して説明しなければならない | 定期借家は期間満了で終わる。再契約できるかは貸主しだい |
リースバックでは定期借家契約が使われることが少なくありません。定期借家は期間が来れば終了し、住み続けるには貸主との再契約が必要です。建て替え先の完成が契約期間をまたぐなら、仮住まいの費用を別に見込んでおく必要があります。契約の種類の違いはリースバックの普通借家と定期借家|更新・再契約の違いで詳しく扱っています。
買主が取り壊す前提なら、借地借家法39条の契約になる
買主が更地にして売る、あるいは自分で建て替えるつもりで買うこともあります。その場合に使われるのが、取壊し予定の建物の賃貸借です。

39条は、法令または契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合に、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨の特約を認めています。この特約は、建物を取り壊すべき事由を記載した書面によってしなければならないとされています。
39条の契約だと分かれば、そこに書かれた取り壊しの時期が、住める期限そのものになります。期間満了より先に来ることもあります。契約書に取り壊しへの言及があるかどうかは、最初に確かめる項目です。
定期借家の途中で出たいときに使える条文
建て替え先が予定より早く完成したら、途中で出たくなります。定期借家でも、一定の条件を満たせば賃借人から解約を申し入れられます。
契約書で先に見ておく3か所
- 取り壊しに触れた条項があるか。39条の特約なら、取り壊すべき事由が書面に記載されているはずです。
- 中途解約の定めがあるか。38条7項より賃借人に不利な特約は8項で無効ですが、有利な定めなら有効です。
- 床面積が200平方メートル未満か。7項の適用はここで切れます。登記事項証明書の床面積で確認します。
38条7項は、床面積200平方メートル未満の居住用建物で、転勤・療養・親族の介護その他やむを得ない事情により生活の本拠として使用することが困難となった賃借人に、解約の申入れを認めています。申入れの日から1か月を経過すると賃貸借は終了します。条件と手順はリースバックの定期借家は途中で解約できる?借地借家法38条7項の3条件と、1か月で終わる仕組みにまとめました。
建て替え資金をつくる3つの手段を比べる
今の家を使って建て替え資金をつくる方法は、リースバックだけではありません。
| 手段 | 所有権 | 今の家に住み続けられるか | 毎月の支払い | 向いている状況 |
|---|---|---|---|---|
| リースバック | 買主へ移る | 賃貸契約の範囲で可能 | 家賃 | 返済能力の審査が不安。今の家を手放す前提で建て替え先を用意したい |
| 不動産担保ローン | 自分のまま | 可能 | 元金と利息の返済 | 安定した収入があり、将来も今の家を残したい |
| 売却して住み替え | 買主へ移る | できない(引っ越す) | 仮住まいの家賃 | 建て替え先が決まっていて、引っ越しの負担を受け入れられる |
リースバックの家賃は、周辺の賃貸相場よりやや高めに設定されるのが一般的です。建て替えが終わって引っ越すまでの期間が長いほど、支払う家賃の総額は増えます。売却で得られる金額だけでなく、住む期間と家賃を掛け合わせた総額を引いてから比べてください。
図:収支を出すときに足し引きするもの
入ってくる
売却代金。譲渡所得が出れば税がかかります。居住用財産なら特別控除の対象になる場合があります
出ていく
住む期間×家賃。加えて建て替え先の工事費と、契約が切れた場合の仮住まい費用
見落としやすい
再契約できなかったときの引っ越し費用と、定期借家の期間が工期より短い場合の空白期間
売却で譲渡所得が出た場合の課税の扱いはリースバックで3,000万円の特別控除は使える?にまとめています。担保に入れて所有権を残す方法との比較はリバースモーゲージとは?リースバックとの違いも参考になります。
契約前に確認する5項目
| 確認する項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| 賃貸借契約は普通借家か定期借家か | 住み続けられる期間の見通しが変わる |
| 定期借家なら契約期間と再契約の条件 | 建て替え先の完成時期に間に合うかを判断できる |
| 毎月の家賃と、住む予定期間の合計額 | 売却代金から家賃総額を引いた金額が、実際に手元へ残る額に近い |
| 建物の変更に関する取り決め | 建て替えだけでなく、リフォームの可否も契約で決まる |
| 買戻しができるか、その条件と価格 | 将来自分で建て替えたいなら、買い戻せるかどうかが前提になる |

よくある質問
リースバックした家を建て替えられますか
できません。契約が済んだ時点で所有者は買主になり、売主は賃借人になります。取り壊して建て直す権限は所有者にあります。契約書に大規模な改築・建て替えを禁じる条項が置かれていることも一般的です。
建て替え資金をリースバックでつくるのは問題ありませんか
国土交通省は、住み替えや建て替え資金の確保等を目的としたリースバックの利用が増加傾向にあると説明しています。想定されている使い方のひとつです。ただし同じ報道発表で、契約内容や将来の収支計画を理解しないまま契約したことによるトラブル例にも触れています。
新しい家ができるまで住み続けられますか
契約の種類によります。普通借家なら更新が前提ですが、定期借家は期間満了で終わり、再契約できるかは貸主しだいです。買主が取り壊しを予定している場合は、借地借家法39条の特約で取り壊し時に終了する契約になっていることがあります。
リフォームはできますか
使用に必要な修繕は民法606条1項で賃貸人の義務とされています。賃貸人が相当の期間内に直さないときや急迫の事情があるときは、607条の2により賃借人が修繕できます。間取りを変えるような工事は契約の定めによるため、無断ではできません。
退去するとき、元どおりにする必要がありますか
民法621条は原状回復義務を定めていますが、通常の使用及び収益によって生じた損耗と経年変化は除かれます。損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときも義務を負いません。
この記事で確認した一次情報(いずれも2026年9月28日に表示を確認)
- 国土交通省「『住宅のリースバックに関するガイドブック』を公表しました」(令和4年6月24日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000174.html(リースバックの定義、住み替え・建て替え資金の確保を目的とした利用の増加、トラブル例への注意) - e-Gov法令検索「借地借家法」(平成3年法律第90号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090(26条の法定更新、28条の正当の事由、38条の定期建物賃貸借と7項の中途解約、39条の取壊し予定の建物の賃貸借) - e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(606条の賃貸人による修繕等、607条の2の賃借人による修繕、621条の賃借人の原状回復義務)














