リースバックで自宅を売ったあと、住んでいるのは賃借人としてです。その契約者が亡くなったとき、同居していた家族はそのまま住み続けられるのか。答えは相続の有無と、結んでいるのが普通借家か定期借家かで変わります。どの条文がどこで効くのかを、民法と借地借家法で順に確認します。
先に結論
- 賃借権は相続の対象です。民法896条により、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
- だから相続人がいれば、契約は終わらず相続人に引き継がれます。住み続けるために契約を結び直す必要はありません。
- 相続人がいないまま亡くなった場合でも、事実上の配偶者などの同居者は借地借家法36条で権利義務を承継できます。
- ただし承継したくないときは、相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に賃貸人へ反対の意思を表示します。
- 定期借家なら、相続しても期間の満了で終わります。更新はありません。
賃借権は相続される。契約は死亡で終わらない
建物の賃借権は財産権です。民法896条は次のように定めています。
民法第八百九十六条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

ただし書きの「一身に専属したもの」には当たらないため、建物の賃借権は相続されます。家賃を払う義務も同じように引き継がれます。つまり契約者が亡くなっても契約そのものは続き、相続人が新しい賃借人になります。
ここで注意が要るのは、相続人が複数いる場合です。賃借権は相続人全員に承継されるので、誰が住むか、誰が家賃を払うかを相続人の間で決める必要があります。賃貸人に対しては、相続人全員が賃借人という立場になります。
相続放棄をすると賃借権も承継しません。負債が多いことを理由に放棄すると、その家に住み続ける根拠も同時に失います。放棄を検討するときは、住まいをどうするかを先に決めてください。
相続人がいないときは、同居者が承継できる
相続人がまったくいない場合に備えた規定が、借地借家法36条です。内縁の配偶者や、届出をしていない養親子関係にあった同居者を保護するための条文です。
借地借家法第三十六条(居住用建物の賃貸借の承継)
居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。

| 状況 | 引き継ぐ人 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続人がいる | 相続人。同居していたかどうかは関係しない | 民法896条 |
| 相続人がいない+事実上の夫婦・養親子の同居者がいる | その同居者。1か月以内に反対の意思を表示すれば承継しない | 借地借家法36条 |
| 相続人がいない+36条の同居者もいない | 引き継ぐ人がいない。相続財産の清算手続きの問題になる | — |
36条2項は、承継した人に賃貸借関係から生じた債権・債務が帰属すると定めています。滞納している家賃があれば、それも一緒に引き継ぐということです。
気をつけたいのは、36条が働くのは「相続人なしに死亡した場合」に限られる点です。疎遠な相続人がいる場合には36条の出番がなく、長年同居していた事実上の配偶者でも、条文上は賃借人になりません。判例上の救済はありますが、条文から直接導かれるものではないため、個別の事案は弁護士に相談してください。
定期借家なら、相続しても期間満了で終わる
リースバックの賃貸借は定期借家で結ばれることが多い契約です。定期借家は借地借家法38条1項により、公正証書による等書面で契約したときに限り、契約の更新がないことを定められます。相続で賃借人が変わっても、この性質は変わりません。
| 契約の型 | 期間満了後 | 押さえる条文 |
|---|---|---|
| 普通借家 | 更新しない旨の通知が期間満了の1年前から6か月前までにされず、かつ正当の事由がなければ、従前と同一の条件で更新したものとみなされる | 借地借家法26条1項・28条 |
| 定期借家 | 更新はない。期間が1年以上なら、賃貸人は満了の1年前から6か月前までに終了の通知をする必要がある | 借地借家法38条1項・6項 |
定期借家で期間が1年以上ある場合、賃貸人は通知期間に終了の通知をしなければ、終了を賃借人に対抗できません。通知期間を過ぎてから通知したときは、その通知の日から6か月を経過した後に対抗できるようになります。相続で連絡先が変わっているときは、この通知が届かないことが実務上の火種になります。
家賃の改定については、定期借家で借賃の改定に係る特約があるときの扱いを家賃の増減請求をまとめた記事で扱っています。
敷金は引き継がれる。返還されるのは明け渡したとき
敷金を預けている場合の扱いも条文にあります。民法622条の2第1項は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないと定めています。

返ってくるのは、契約が終わって家を明け渡したあとです。相続して住み続けるなら、その時点では返還されません。滞納家賃があれば、賃貸人はそれを敷金から充当できます(同条2項)。逆に賃借人の側から「敷金を家賃に充ててほしい」と請求することはできません。
なお、リースバックした家が第三者に転売された場合、敷金の返還債務は新しい所有者に承継されます(民法605条の2第4項)。この仕組みは転売されたときに住み続けられるかをまとめた記事で扱っています。
相続が起きたあとにやること
契約書を探す
普通借家か定期借家か、期間はいつまでか、買戻しの特約があるかを確認します。定期借家なら終了の通知がいつ来るかも決まります。
賃貸人に連絡する
賃借人が亡くなったことと、誰が引き継ぐのかを伝えます。家賃の振込口座や連絡先の変更もここで済ませます。
相続人を確定する
戸籍をそろえて相続人を確定します。相続人が複数なら、誰が住み誰が払うのかを決めます。
滞納がないか確認する
賃貸借関係から生じた債務も引き継ぎます。滞納があると契約解除の理由になります。
買戻しの条件を確認する
買戻しの権利が相続人に引き継がれるか、期限がいつまでかは契約書の定めによります。
相続人がいないときに1か月で決めること
- 承継するかどうか。借地借家法36条のただし書きは、相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に反対の意思を表示したときは承継しないと定めています。
- 滞納家賃の有無。承継すると債務も帰属します(36条2項)。金額を先に確かめてください。
- 今後の家賃を払えるか。滞納が続くと、解除に正当の事由が要らなくなります。詳しくは家賃を滞納するとどうなるかの記事にあります。
- 反対の意思は誰に伝えるか。条文は「建物の賃貸人に」と書いています。リースバックでは買い取った会社が相手です。
よくある質問
契約者が亡くなったら、契約を結び直す必要がありますか
相続人がいる場合、賃借権は民法896条により相続人に承継されるので、契約そのものは続きます。ただし名義や連絡先の変更手続きは必要です。賃貸人に連絡してください。
同居していない相続人でも引き継ぎますか
引き継ぎます。民法896条は同居を要件にしていません。賃借権は相続人に承継され、家賃の支払義務も同じです。誰が住むかは相続人の間の問題になります。
内縁の配偶者は住み続けられますか
相続人がいないまま亡くなった場合は、借地借家法36条により承継できます。相続人がいる場合は36条の対象外です。実際にどうなるかは事案によるため、弁護士に相談してください。
定期借家でも相続されますか
賃借権は相続されます。ただし定期借家は更新がないため、期間の満了で終了します。期間が1年以上なら、賃貸人は満了の1年前から6か月前までに終了の通知をする必要があります。
買戻しの権利は相続人に引き継がれますか
契約書の定め方によります。買戻しが特約なのか再売買の予約なのかで扱いが変わるため、買戻しの違いをまとめた記事と契約書の条項を合わせて確認してください。
まとめ
リースバック後の賃借権は財産権なので、契約者が亡くなっても契約は終わりません。相続人がいれば民法896条により相続人が承継し、家賃の支払義務も一緒に引き継ぎます。相続人がいないまま亡くなった場合は、事実上の配偶者などの同居者が借地借家法36条で承継でき、承継したくないときは1か月以内に賃貸人へ反対の意思を表示します。ただし定期借家なら更新がないため、相続しても期間の満了で終わります。まず契約書を開いて、普通借家か定期借家か、期間はいつまでかを確認してください。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第896条(相続の一般的効力)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-At_896
- e-Gov法令検索「民法」第622条の2(敷金)・第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-At_622_2
- e-Gov法令検索「借地借家法」(平成三年法律第九十号)第36条(居住用建物の賃貸借の承継)https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090#Mp-At_36
- e-Gov法令検索「借地借家法」第26条(建物賃貸借契約の更新等)・第28条(更新拒絶等の要件)・第38条(定期建物賃貸借)https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090#Mp-At_38
条文は2026年9月25日にe-Gov法令検索のAPIから取得し、民法は令和8年6月24日施行、借地借家法は令和8年5月21日施行の内容であることを確認しています。この記事は条文の説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。相続や契約の解釈で争いがあるときは弁護士に相談してください。














