リースバックの記事はたいてい「メリットとデメリット」で終わります。しかし実際に何が起きているのかは、国が公表している相談事例を読んだほうが早いです。国民生活センターは2026年8月4日に「自宅の『リースバック』トラブルにご注意!」を公表し、3件の相談事例を具体的な金額つきで掲載しました。3件とも70歳代で、売却したあとに条件を動かされています。この記事では、公表された事例と注意喚起の中身を、契約前に確かめられる形に整理します。
公表資料から読み取れること
- 相談は契約当事者の約7割が70歳以上で、件数はここ数年増加している(2025年5月21日公表)。
- 公表事例では、6年後に家賃7万円から約10万円への値上げを迫られ、断れば退去と言われている。
- 買い戻しを申し出たところ、売却額200万円に対して1,000万円を提示された事例もある。
- リフォーム代金を払えないと言った高齢者に、リースバックで売った代金から払うよう勧める手口が報告されている。
- 自宅を不動産業者に売却した場合、クーリング・オフはできない。
公表された3つの相談事例


1件目は家賃の値上げです。「6年前、生活が苦しく築40年の分譲マンションのリースバック契約をした。約1000万円で売却し、家賃7万円で賃貸借契約をした。先日、貸主であるリースバック業者から家賃を約10万円に値上げすると言われた。貸主は転売を考えているようで、値上げに不満なら退去するよう言われた」(2025年8月受付、70歳代女性)。
2件目はリフォーム工事との組み合わせです。母親の家に業者Aが訪問して床のリフォーム工事を契約し、支払えないと言うと不動産業者Bを案内された、という経緯です。1100万円で自宅を売却し、同じ日に業者Cとも450万円のキッチン等の工事を契約していました。売却金から工事代を払おうとしたところ、金融機関から警察へ通報があって家族に連絡が入っています。相談者は「自宅の売却額では3年程しか住み続けられない」と書いています(2026年2月受付、70歳代女性)。
3件目は買い戻しです。「1年前に自宅マンションを200万円で売却し2年間の定期借家契約を結び、家賃2万円を払って住み続けている。賃貸借契約終了後に退去しなければならない可能性があるので、買い戻したいと不動産業者に申し出たところ、購入額として1000万円を提示され困っている」(2025年8月受付、70歳代男性)。
2件目は手口として名指しされています。公表資料は「自宅を訪問してきた業者が高額なリフォーム工事を契約させ、『支払えない』というとリースバック契約による自宅の売却代金から工事代金を払うよう勧めるケースがみられます」としたうえで、「リフォームによって売却価格が上がるわけではなく、他人の所有物になる住宅のリフォーム代金を払わされている形となり、リースバック契約の利用目的として不適切と考えられます」と書いています。
家賃の総額が売却額を超える日

公表資料の「消費者へのアドバイス」は、まずこう書いています。「自宅の売却と賃貸借契約を同時に結ぶリースバック契約は、その家に住み続ける限り家賃を支払う必要があります。このため、住む期間が長くなると、家賃の支払い総額が家の売却金額を上回ってしまう場合があります。」
事例1の数字で計算してみます。売却額が約1,000万円、家賃が月7万円なら年84万円。1,000万円 ÷ 84万円 ≒ 約11.9年です。値上げ後の月10万円なら年120万円で、約8.3年に縮みます。事例3は売却額200万円、家賃月2万円で年24万円なので、やはり約8.3年です。
| 事例 | 売却額 | 家賃(月) | 年間家賃 | 売却額に追いつく年数 |
|---|---|---|---|---|
| 事例1・当初 | 約1,000万円 | 7万円 | 84万円 | 約11.9年 |
| 事例1・値上げ後 | 約1,000万円 | 約10万円 | 約120万円 | 約8.3年 |
| 事例3 | 200万円 | 2万円 | 24万円 | 約8.3年 |
この計算には、修繕費も引っ越し費用も入っていません。70歳で契約すれば、80歳前後で「売った金額を家賃で払い終える」計算になります。そこから先は、住み続ける限り持ち出しです。家賃の決まり方はリースバックの家賃はどう決まる?にまとめています。
相談から見えた4つの問題点

2025年5月21日の公表資料は、相談の傾向をまとめています。「契約当事者の約7割が 70 歳以上となっており、相談件数がここ数年増加しています」。相談では「何時間も勧誘され続けた」「マンションを売るよう執拗に勧誘された」といった勧誘に問題がある事例が目立つ、とされています。
| 問題点 | 契約前に確かめられること |
|---|---|
| 長時間の勧誘や強引な勧誘によって消費者が望まない契約をしてしまう | その場で決めない。日を改める。同席者を用意する |
| リースバックの契約内容について消費者に適切に理解させていない | 売買契約書と賃貸借契約書を両方受け取り、期間・更新・家賃改定の条項を読む |
| 「自宅に住み続けたい」という消費者のニーズに合致していない契約がなされている | 何年住みたいかを先に決め、その年数を契約で確保できるか確認する |
| 判断能力が低下した高齢者がトラブルにあっている | 家族が同席する。地域包括支援センターに相談する |
同資料は、国土交通省が「リースバックに関する基本的な知識やメリット・デメリット、不動産の売買・賃貸借契約の知識などを周知する」予定であること、「その中で法令に抵触し得る事例について、消費者向けに具体的に周知することを予定しています」とも記しています。あわせて、全国宅地建物取引業協会連合会、全日本不動産協会、不動産協会、不動産流通経営協会、全国住宅産業協会の5団体へ、法令の遵守と高齢者に対する配慮を要望しています。
クーリング・オフができない意味
公表資料は、この点をはっきり書いています。「消費者が不動産業者に自宅を売却する場合には、宅地建物取引業法に定めるクーリング・オフが適用されないため、売買契約が成立してしまうと、無条件で契約を解除することはできません。」
解除したい場合の道筋も示されています。「売主が契約を解除する場合は、手付金の倍額を買主に支払う、いわゆる『手付倍返し』で解除することとなり、手付解除が可能な期間を過ぎると、ほとんどの場合、契約条項に基づく違約金が必要となる」。そして「不動産に関する取引は高額な取引であることが多く、違約金の額も高くなってしまうことがあります」と続きます。
訪問販売のイメージで考えないでください。訪問販売の商品なら8日以内に無条件で解除できることがありますが、自宅を業者に売る契約は別枠です。制度の根拠はリースバックにクーリング・オフはある?宅建業法37条の2が適用されない理由で条文まで確認できます。
署名する前に止められるかどうかが分かれ目です。署名したあとは、費用を払って解除するか、契約どおりに進めるかの二択になります。
契約前に確かめる5点
先に年数を決めます。その年数を契約で確保できないなら、条件が合っていません。定期借家なら期間満了で終わります。
改定の条項があるか、再契約時にどう決まるかを契約書で確認します。事例1は6年後に約4割の値上げを提示されています。
住みたい年数 × 年間家賃を計算し、売却額と比べます。超えるなら、売る意味を数字で説明できるか考えます。
買い戻せるのか、いくらでか、いつまでか。事例3は5倍の金額を提示されています。口約束ではなく契約条項で確認します。
公表資料は「家族など信頼できる人と相談しながら」と書いています。1人で決めない仕組みを先に作ります。
消費者ホットライン「188(いやや!)」は、最寄りの消費生活センター等を案内する全国共通の3桁番号です。
複数社から同じ条件で見積もりを取ると、売却額と家賃の妥当性が見えます。手順はリースバックの相見積もり|同じ条件で出させ、家賃総額と終了条件まで比べる手順にまとめています。契約の終わり方については定期借家契約とは?更新がない賃貸借の条件と、リースバックで見るべき5点が具体的です。
よくある質問
リースバックのトラブルはどこに相談すればいいですか?
消費者ホットライン「188(いやや!)」に電話すると、最寄りの市町村や都道府県の消費生活センター等を案内してもらえます。
家賃を値上げすると言われたら断れますか?
この記事は個別の法的判断を示すものではありません。公表事例では、値上げに応じないなら退去するよう繰り返し求められた例が報告されています。まず契約書の家賃改定の条項を確認し、消費生活センター等に相談してください。
契約したあとにやめられますか?
自宅を不動産業者に売却する場合、宅地建物取引業法のクーリング・オフは適用されません。手付解除の期間を過ぎると違約金が必要になるのが一般的です。
高齢の親が契約してしまったようです。
消費生活センター等への相談は、家族やホームヘルパー、地域包括支援センターなどの職員からでも可能です。できるだけ早く相談してください。
リースバックは危険な仕組みなのですか?
公表資料は仕組みそのものを否定していません。「お金が払えないからリースバック」という動機を危険として挙げ、家賃を払い続けられるか、退去を求められた場合に住む場所を確保できるかを、契約前に慎重に検討するよう求めています。
まとめ
- 国民生活センターが2026年8月4日に公表した3事例は、いずれも70歳代。売却後に条件を動かされている。
- 家賃の総額は、事例の数字で8年から12年ほどで売却額に追いつく。値上げがあればもっと早い。
- 自宅を業者に売る契約にクーリング・オフはない。署名する前が分かれ目。
- 「何年住みたいか」を先に決め、その年数を契約で確保できるかを確認する。
- 迷ったら188。相談は家族や地域包括支援センターの職員からでもできる。
この記事で参照した一次情報(2026年9月10日確認)
- 独立行政法人国民生活センター「自宅の『リースバック』トラブルにご注意!」(2026年8月4日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260804_1.html - 独立行政法人国民生活センター「強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!-本当に『そのまま“ずっと”住み続けられる』契約ですか?-」(2025年5月21日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20250521_1.html














