リースバックを検討する人の多くが、最後に「いつか買い戻せる」という一点を頼りにします。ところが、契約書に書かれている「買戻し」にはまったく性質の違う2つの形があり、どちらなのかで期限も金額も、第三者に主張できるかどうかも変わります。ここでは民法の条文と国土交通省のガイドブックを使って、その違いと、契約前に見るべき3点を整理します。
先に結論
- 民法が定める「買戻しの特約」は、売買契約と同時にしなければ付けられません。あとから追加することはできません。
- 買戻しの特約の期間は10年を超えられません。それより長い期間を定めても10年になり、あとから伸ばすこともできません。期間を定めなかったときは5年以内に買い戻す必要があります。
- 返す金額は、原則として買主が支払った代金と契約の費用です。ただし別段の合意をした場合は、その合意で定めた金額になります。
- 実務で使われることが多いのは「再売買の予約」で、こちらは民法の買戻しの規定に直接は縛られません。金額も期間も契約次第になります。
- 国土交通省のガイドブックも、買戻しについて口約束ではなく契約書に具体的な条件が記載されていることを確認するよう促しています。
民法の「買戻しの特約」に書かれていること
民法の第三款は「買戻し」に充てられており、第579条から第585条までが該当します。消費者として押さえるべき条文は4つです。
| 条文 | 見出し | 内容 |
|---|---|---|
| 第579条 | 買戻しの特約 | 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合はその合意により定めた金額)および契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる |
| 第580条 | 買戻しの期間 | 買戻しの期間は10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは10年とする。期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。期間を定めなかったときは5年以内に買戻しをしなければならない |
| 第581条 | 買戻しの特約の対抗力 | 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは第三者に対抗することができる |
| 第583条 | 買戻しの実行 | 売主は第580条に規定する期間内に代金および契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない |
ここから読み取れることは3つあります。第一に、買戻しの特約は売った瞬間に決まるということ。売ってから数年後に「やっぱり買い戻せるようにしてほしい」と頼んでも、民法の買戻しの特約としては成立しません。第二に、時計は最長10年で止まるということ。第三に、登記していなければ第三者には主張できないということです。

債権者が買戻権を消滅させられる場面もある
あまり知られていませんが、第582条には「買戻権の代位行使」という条文があります。売主の債権者が、売主に代わって買戻しをしようとするときは、買主は裁判所において選任した鑑定人の評価に従い、不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し、なお残余があるときはこれを売主に返還して、買戻権を消滅させることができるとされています。
借入れの整理を目的にリースバックを使う場合、この条文の存在は無視できません。買戻しの権利は、自分だけの都合で守り切れるとは限らないということです。共有名義の持分を買戻特約付きで売った場合の扱いも、第584条と第585条に別途定めがあります。
実務で多いのは「再売買の予約」
リースバックの契約書に出てくる買戻しは、民法の買戻しの特約ではなく、再売買の予約として組まれていることがあります。これは「将来もう一度、売買契約を結ぶことをあらかじめ約束しておく」という別の枠組みで、民法の買戻しの規定に直接は縛られません。

| 比べる点 | 買戻しの特約 | 再売買の予約 | 買戻しの特約の根拠 |
|---|---|---|---|
| 結ぶ時期 | 売買契約と同時でなければならない。あとから追加できない | 売買契約と同時である必要はない。売却後に約束する場合はこの形になる | 第579条 |
| 返す金額 | 原則として買主が支払った代金および契約の費用。別段の合意をした場合はその金額 | 契約で定めた金額。売った価格より高く設定されることがある | 第579条 |
| 期間の上限 | 10年を超えられない。長い期間を定めても10年になる。定めなかったときは5年以内 | 民法の買戻しの規定に直接は縛られないため、契約次第 | 第580条 |
| 期間の延長 | 期間を定めたときは、その後に伸長できない | 民法の買戻しの規定に直接は縛られないため、契約次第 | 第580条第2項 |
| 第三者への対抗 | 売買契約と同時に登記したときは、第三者に対抗することができる | 本記事で参照した条文からは、一律の定めを確認できなかった | 第581条 |
| 買戻しの実行 | 期間内に代金および契約の費用を提供しなければ買戻しをすることができない | 本記事で参照した条文からは、一律の定めを確認できなかった | 第583条 |
※ 上の図と同じ内容を文字で示したもの。根拠欄の条文は e-Gov法令検索「民法」第三款 買戻しによる。再売買の予約は民法第三款の規定によらないため、条件は個々の契約書で確認する必要がある。
どちらが有利かは一概に言えません。期間を10年より長く取りたいなら再売買の予約のほうが柔軟です。一方で、買い戻せる金額が売った価格より高く設定されることがあるのもこちらです。買戻しの特約なら原則として買主が支払った代金と契約の費用ですが、再売買の予約では契約で定めた金額になります。
「買い戻せます」という言葉だけでは、何も決まっていないのと同じです。国土交通省のガイドブックは、買戻しについて、口約束ではなく契約書に具体的な条件が記載されていることを確認すること、そして買戻し価格が自分の払える額かを冷静に検討することを挙げています。金額・期限・登記の3点が契約書に書かれていなければ、その買戻しは実現しない可能性があります。
契約前に確認する4項目
民法の買戻しの特約なのか、再売買の予約なのか。契約書の条項名と条文の引用を確認します。ここが分からないまま署名しないでください。
いくら払えば戻せるのか。売った価格と同じか、それより高いか。上乗せがある場合、その根拠と計算方法が書かれているかを見ます。
いつまでに買い戻さなければならないのか。買戻しの特約なら最長10年で、あとから伸ばせません。定めがない場合は5年以内になります。
買戻しの特約は、売買契約と同時に登記して初めて第三者に対抗できます。買主が物件を第三者に転売した場合に効くかどうかは、ここで決まります。
買主が第三者へ売ってしまうという事態は、実際に起こり得ます。登記されていない買戻しの約束は、その第三者に対しては主張できません。「登記します」と口頭で言われた場合は、いつ・どの登記を入れるのかを契約書に落としてもらってください。

買戻しを前提にするなら、資金計画を先に立てる
買戻しの条件が契約書で固まっていても、実際に買い戻せるかどうかは資金の問題です。買戻し価格に加えて、登記費用や仲介手数料などの費用も必要になります。期限までにその金額を用意できる見込みがないなら、買戻しを前提にした判断そのものを見直すべきです。
売却価格と家賃のバランスは買取価格の決まり方の記事、契約の期間そのものは定期借家契約の記事、解約時の扱いはクーリング・オフの記事で確認してください。複数社の条件を並べたい場合は相見積もりの記事が参考になります。
よくある質問
買戻しはあとから契約に追加できますか
民法の買戻しの特約としては追加できません。第579条は「売買契約と同時にした買戻しの特約により」と定めています。売却後に買い戻す約束をする場合は、再売買の予約など別の形になります。
買戻しの期間に上限はありますか
買戻しの特約であれば10年を超えることができません。それより長い期間を定めた場合も10年になります。期間を定めなかったときは5年以内に買い戻す必要があります。
買戻しの期間はあとから延長できますか
できません。第580条第2項は、買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができないと定めています。
買い戻す金額はいくらになりますか
買戻しの特約では、原則として買主が支払った代金および契約の費用です。ただし別段の合意をした場合は、その合意により定めた金額になります。再売買の予約の場合は契約で定めた金額です。
物件が第三者に売られたら買い戻せませんか
売買契約と同時に買戻しの特約を登記していれば、買戻しを第三者に対抗することができます。登記していない場合、その第三者に対して買戻しを主張することは難しくなります。
契約書のどこを見れば分かりますか
買戻しや再売買の予約に関する条項に、金額・期限・登記の3点が具体的に書かれているかを確認します。国土交通省のガイドブックも、口約束ではなく契約書に具体的な条件が記載されていることを確認するよう促しています。














