リースバックの退去|自分から出るときと言われて出るときで、根拠になる条文が変わる

リースバックの「退去」は、自分から出るのか、相手から言われて出るのかで、根拠になる条文がまったく違います。自分から出るなら契約の解約、相手から言われて出るなら契約の終了か解除です。どちらに当たるかで、必要な予告期間も、払うべきお金も、争えるかどうかも変わります。ここでは条文と公的な資料だけで順に確かめます。契約書の文言は会社ごとに違うため、相場や一般的な金額は書きません。

この記事の要点

  • 定期借家で1年以上の契約なら、貸主は満了の1年前から6か月前までの間に終了通知をしなければ、終了を借主に対抗できません(借地借家法38条6項)。
  • 居住用で床面積200平方メートル未満の定期借家は、転勤・療養・親族の介護その他やむを得ない事情があるとき、借主から解約を申し入れて1か月で終了できます(38条7項)。この1か月を延ばす特約など、借主に不利な定めは効力を持ちません(38条8項)。
  • 期間の定めがない建物賃貸借では、借主からの解約は申入れから3か月で終了し(民法617条1項2号)、貸主からの解約申入れは6か月です(借地借家法27条1項)。
  • 原状回復の義務から、通常の使用によって生じた損耗と経年変化は除かれます(民法621条)。
  • 敷金は、賃貸借が終了し建物の返還を受けたあとに、債務を控除した残額が返されます(民法622条の2第1項)。明渡しと同時ではありません。
  • 敷金が返ってこない場合、60万円以下なら少額訴訟という手続きがあります。

退去の場面を4つに分ける

まず、いま自分がどの場面にいるのかを確定させます。ここを取り違えると、必要な予告期間も争える範囲も変わります。

場面 何が起きているか 根拠
自分から出る(期間の定めあり) 中途解約。契約に中途解約の条項があるかで決まる。定期借家で居住用200平方メートル未満なら、やむを得ない事情があるとき申入れから1か月で終了 借地借家法38条7項・8項
自分から出る(期間の定めなし) いつでも解約を申し入れられる。建物の賃貸借は申入れから3か月で終了 民法617条1項2号
期間満了で出る(定期借家) 更新がないので満了で終了。1年以上の契約は、貸主が満了の1年前から6か月前までに終了通知をしないと終了を対抗できない 借地借家法38条1項・6項
貸主から言われて出る(普通借家) 更新拒絶または解約申入れ。正当の事由が必要。解約申入れの場合は申入れから6か月で終了 借地借家法26条・27条・28条

リースバックでは定期借家が使われることが多く、その場合は1行目と3行目に当たります。自分の契約がどちらなのかは、契約書の表題ではなく更新についての定めと、契約時に別の書面で説明を受けたかどうかで判断します。定期借家として有効に成立させるには、書面による契約(38条1項)と、契約書とは別の書面を交付しての事前説明(38条3項)の両方が必要で、説明を欠いたときは更新がない旨の定めが無効になります(38条5項)。仕組みは定期借家契約とはに整理しました。

自分から出るとき

期間の定めがある契約の中途解約

期間を決めた賃貸借は、原則としてその期間の間続きます。途中でやめられるかどうかは、契約に中途解約の条項があるかによります。条項があれば、そこに書かれた予告期間(1か月前、3か月前など)に従います。

ただし定期借家には、条項がなくても使える例外が置かれています。

借地借家法 第三十八条第七項 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積……が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。

条件は3つです。居住用であること、床面積200平方メートル未満であること、やむを得ない事情により生活の本拠として使えなくなったこと。この規定に反する借主に不利な特約は無効です(38条8項)。3つの条件の当てはめ方は途中解約が認められる3条件で詳しく扱っています。

期間の定めがない契約の解約

当事者が期間を定めなかったときは、各当事者がいつでも解約を申し入れることができ、建物の賃貸借は申入れの日から3か月を経過することによって終了します(民法617条1項2号)。普通借家で更新のみなしが働いた場合、そのときの期間は定めのないものになるため(借地借家法26条1項ただし書)、この形に入ります。

同じ「解約」でも、貸主から申し入れた場合は6か月です(借地借家法27条1項)。しかも貸主からの解約申入れには正当の事由が要ります(28条)。借主と貸主で期間も要件も違うことを押さえておいてください。

貸主から言われて出るとき

定期借家であれば、期間の満了で終了します。ただし期間が1年以上の場合には手続きがあります。

借地借家法 第三十八条第六項 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間……に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。

通知が来ていない、あるいは通知の時期が遅れている場合は、そのぶん終了を対抗されない期間が生まれます。通知書は封筒ごと保管し、届いた日を記録してください。期間の起算点がそこになります。

普通借家であれば、貸主からの更新拒絶の通知は期間満了の1年前から6か月前までの間に必要で(26条1項)、しかも正当の事由が認められる場合でなければできません(28条)。条文が考慮するものとして並べているのは、双方が建物の使用を必要とする事情、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況と現況、そして明渡しの条件として財産上の給付をする旨の申出(立退料)です。

なお、家賃の滞納が続いた場合は、正当の事由の話ではなく契約の解除の話になります。扱いは家賃を滞納したときに何が変わるかに分けて書きました。賃貸借の解除は将来に向かってのみ効力を生じます(民法620条)。

退去までの時間の組み立て方

  1. 契約書で自分の場面を確定する

    定期借家か普通借家か、期間の定めがあるか、中途解約の条項があるか。事前説明書面が手元にあるかも確認する。

  2. 予告の期限を逆算する

    借主から解約するなら、契約の予告期間または法定の期間(定期借家の38条7項なら1か月、期間の定めがなければ3か月)。

  3. 解約や退去の意思を書面で伝える

    口頭だけにしない。日付が起算点になるため、送った日と届いた日が分かる形にする。

  4. 原状回復の範囲を先に確認する

    通常損耗と経年変化は借主の義務から除かれる(民法621条)。契約に特約があるかを読む。

  5. 造作の扱いを決める

    貸主の同意を得て付加した畳・建具その他の造作は、時価で買い取るよう請求できる(借地借家法33条1項)。ただし特約で排除されていることがある。

  6. 明け渡して、敷金の精算を受ける

    敷金が返るのは、賃貸借が終了し建物の返還を受けたあと(民法622条の2第1項)。明渡しと引換えではない。

退去を決めてから敷金の精算までの順序。2と3の日付が、あとから効いてくる。

退去のときに動くお金

原状回復の費用

条文賃借人は、受け取った後に生じた損傷を原状に復する義務を負う。ただし通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化は除かれ、損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるときも義務を負わない(民法621条)。

見る場所契約書に通常損耗まで借主負担とする特約があるか。国土交通省の賃貸住宅標準契約書が比較の物差しになる。

敷金の返還

条文賃貸借が終了し賃貸物の返還を受けたとき、受け取った敷金の額から借主の債務の額を控除した残額を返還する(民法622条の2第1項)。貸主は借主の不履行があれば敷金を弁済に充てられるが、借主から充当を請求することはできない(同条2項)。

見る場所精算書の控除項目。原状回復費用の内訳が通常損耗を含んでいないか。

造作の買取り

条文貸主の同意を得て付加した造作は、期間の満了または解約の申入れによって終了するときに、時価で買い取るよう請求できる(借地借家法33条1項)。

見る場所この規定は37条の強行規定に入っていないため、特約で排除できます。契約書に排除条項があるかを確認する。

残っていた家賃・共益費

条文契約の定めによる。日割りの計算方法と起算日を確認する。

見る場所契約書の賃料の条項と、精算書の日数。

国土交通省は、賃貸借契約をめぐる紛争を防止し、借主の居住の安定と貸主の経営の合理化を図ることを目的として「賃貸住宅標準契約書」を公表しています。法令で使用が義務づけられているものではありませんが、条項の並びと書き方の物差しとして使えます。平成30年3月に改定され、家賃債務保証業者型と連帯保証人型の2種類が掲載されています。

国土交通省の賃貸住宅標準契約書についてのページ画面。平成30年3月版の家賃債務保証業者型と連帯保証人型が掲載されている
出典:国土交通省「『賃貸住宅標準契約書』について」。平成30年3月改定。

原状回復の負担区分そのものは民法と国土交通省のガイドラインによる負担区分にまとめています。

敷金が返ってこないとき

精算書の内訳に納得がいかない、あるいは返還されないまま連絡が取れない場合、話し合いの次の手段があります。民事訴訟のうち60万円以下の金銭の支払を求める訴えについては、原則として1回の審理で紛争解決を図る少額訴訟という手続きが用意されています。

裁判所の少額訴訟のページ画面。60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて原則1回の審理で解決を図る手続と説明されている
出典:裁判所「少額訴訟」。令和8年5月21日以降は書面に加えてオンラインでの申立てもできる。

裁判所の説明によれば、原則1回の審理で終えるため、最初の期日までに原告のすべての言い分と証拠を提出することになっており、証拠書類や証人は審理の日にその場で調べられるものに限られます。判決書や和解調書に基づいて強制執行を申し立てることもできます。令和8年5月21日以降は、書面による申立てに加えてオンラインでの提出(電子申立て)もできるようになりました。

その前段として、消費生活センターに相談する道もあります。相手が宅地建物取引業保証協会の社員であれば、協会が苦情の申出に応じて調査する義務を負います(宅建業法64条の5第1項)。窓口ごとの役割は苦情・監督・争いで分かれる相談先に分けました。

退去ではなく住み続ける道を探すなら

定期借家の満了が近い場合、選べるのは退去か再契約です。再契約で結ぶのは前の契約の続きではなく別の契約なので、家賃も期間もその時点で決め直されます。貸主に再契約の意向があるかを早めに確かめ、無い場合は次の住まいを探す時間を確保してください。買戻しを考えているなら、その約束がどの法的な形で残っているかによって行使できる期間と条件が変わります。整理は買戻し特約と再売買の予約の違いにあります。

物件が第三者へ売られた場合でも、建物の引渡しを受けている借主は登記がなくても新しい所有者に賃借権を主張できます(借地借家法31条)。賃貸人の地位は譲受人に移り、敷金の返還債務も譲受人が承継します(民法605条の2第1項・4項)。オーナーが変わったことを理由に、ただちに出なければならないわけではありません。買い手の側から見た構造はリースバック物件への投資に書きました。

よくある質問

リースバックの契約はいつでもやめられますか

契約に中途解約の条項があればそれに従います。条項がなくても、居住用で床面積200平方メートル未満の定期借家なら、転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情により生活の本拠として使えなくなったときに解約を申し入れることができ、申入れから1か月で終了します(借地借家法38条7項)。

退去を求める通知が来ました。従うしかないですか

契約の種類によります。定期借家で期間が1年以上なら、貸主は満了の1年前から6か月前までの間に通知をしなければ終了を対抗できません(38条6項)。普通借家なら、更新拒絶や解約申入れに正当の事由が必要です(28条)。まず通知が届いた日と契約の満了日を確認してください。

強制的に追い出されることはありますか

賃貸借が終了していない段階で、貸主が自力で鍵を替えたり荷物を運び出したりすることはできません。明渡しを実現するには裁判所の手続きが必要です。終了の有無が争いになっているなら、その点から確認することになります。

退去時の掃除はどこまで必要ですか

原状回復の義務からは、通常の使用によって生じた損耗と経年変化が除かれています(民法621条)。契約に通常損耗まで借主負担とする特約があるかどうかで扱いが変わるため、契約書の条項を確認してください。

敷金はいつ返ってきますか

賃貸借が終了し、建物の返還を受けたあとです(民法622条の2第1項)。明渡しと引換えに返してもらえるものではありません。控除される債務の内訳は精算書で確認します。

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