リースバックでは、住んでいた本人が売主になります。売主には契約不適合責任があり、引き渡した建物が契約の内容に適合していなければ、買主から修補や代金減額を求められる立場です。契約書に「担保責任を負わない」という特約が入っていても、民法572条は知りながら告げなかった事実については責任を免れることができないと定めています。売る側の責任がどこまで残るのかを条文で確認します(2026年9月26日確認)。
先に結論
- 引き渡した目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないとき、買主は修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる履行の追完を請求できます(民法562条1項)。
- 相当の期間を定めて追完を催告し、その期間内に追完がなければ代金の減額を請求できます(563条1項)。追完が不能な場合などは催告なしで請求できます(同条2項)。
- これらの規定は損害賠償の請求と解除権の行使を妨げません(564条)。
- 買主が不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完・減額・損害賠償・解除ができなくなります(566条)。
- ただし売主が引渡しの時に不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、この期間制限は適用されません(566条ただし書き)。
- 担保責任を負わない旨の特約をしても、知りながら告げなかった事実と自ら第三者のために設定し、または第三者に譲り渡した権利については責任を免れません(572条)。
リースバックでは、住んでいた人が売主になる
リースバックは、自宅を売却したうえで、同じ家に賃借人として住み続ける仕組みです。売買契約と賃貸借契約の2本が同時に走ります。このうち売買契約では、これまで住んでいた本人が売主の立場に立ちます。
図1 立場が入れ替わる
売買契約の前
その家の所有者として住んでいます。建物の状態をいちばん知っているのは本人です。
売買契約
売主になります。引き渡した建物が契約の内容に適合していなければ、契約不適合責任を負う立場です。
賃貸借契約
賃借人になります。住み続けますが、建物は他人のものになっています。
ふつうの不動産売買と違うのは、売ったあとも同じ建物に住み続ける点です。雨漏りやシロアリのような不具合は、売却後に自分が住んでいる最中に見つかることもあります。そのとき誰が直すのかは、売買契約と賃貸借契約のどちらの問題なのかで変わります。売却後の修繕については修繕・原状回復の負担区分をまとめた記事で扱っています。
買主が求められる4つのこと
契約不適合があったときに買主ができることは、条文で段階的に定められています。
| 請求 | 根拠 | 条件 |
|---|---|---|
| 履行の追完(修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し) | 562条1項 | 引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないとき |
| 代金の減額 | 563条1項 | 相当の期間を定めて追完を催告し、その期間内に追完がないとき |
| 代金の減額(催告なし) | 563条2項 | 追完が不能なとき、売主が追完を拒絶する意思を明確に表示したときなど |
| 損害賠償・解除 | 564条 | 562条・563条の規定は、415条の損害賠償請求ならびに541条・542条の解除権の行使を妨げない |
562条1項にはただし書きがあり、「売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる」とされています。買主が代替物を求めても、売主の側で修補を選べる場合があるということです。
また、562条2項と563条3項には、不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは請求できないという定めがあります。売却後に買主側の使い方が原因で生じた不具合まで、売主が負うわけではありません。
通知の期限は「知った時から1年」
責任が無期限に続くわけではありません。566条が期間を区切っています。

民法 第五百六十六条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
| 場面 | 結論 |
|---|---|
| 買主が不適合を知った時から1年以内に通知した | 追完・減額・損害賠償・解除を請求できる |
| 1年以内に通知しなかった | 不適合を理由とする請求ができなくなる |
| 売主が引渡しの時に不適合を知っていた | 期間制限は適用されない(ただし書き) |
| 売主が重大な過失によって知らなかった | 期間制限は適用されない(ただし書き) |
| 対象 | 種類または品質に関する不適合。数量については566条の対象として書かれていない |
起算点が「引渡しの時」ではなく「買主がその不適合を知った時」である点に注意が必要です。売却から何年も経ってから不具合が見つかった場合でも、買主がその時点から1年以内に通知すれば請求の対象になり得ます。
「担保責任を負わない」と書いても消えない責任がある
リースバックの売買契約では、売主の担保責任を免除する特約が置かれることがあります。ただし、その特約には限界が条文で定められています。

民法 第五百七十二条(担保責任を負わない旨の特約)
売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
| 対象 | 免責特約の効果 |
|---|---|
| 知りながら告げなかった事実 | 責任を免れることができない |
| 自ら第三者のために設定した権利 | 責任を免れることができない |
| 自ら第三者に譲り渡した権利 | 責任を免れることができない |
| 上記以外の不適合 | 特約の内容に従う |
「知りながら告げなかった事実」は、売主が実際に知っていたかどうかが問われます。長く住んでいた本人は、建物の不具合を知っている可能性が高い立場です。雨漏りの跡、以前の修理、地盤の沈下、近隣とのトラブルなど、知っていることは免責特約があっても告げておくほうが安全です。
契約前に整理しておくこと
売主の立場で確認する5点
- 免責特約が入っているか。入っていても572条の範囲は免れません。
- 知っている不具合を書面に残したか。告げた事実は記録に残しておくと、後の争いを避けられます。
- 過去の修繕履歴。いつ何を直したかは、売主しか知らない情報です。
- 設定されている権利。自ら第三者のために設定した権利は、免責特約の対象外です。
- 売買契約と賃貸借契約の切り分け。売却後の不具合が売買の問題か賃貸借の問題かで、負担する人が変わります。
売買契約と賃貸借契約に何が書かれるかはリースバックの契約は二通あるという記事、宅建業法37条が定める記載事項は手続きの流れと書類の記事で扱っています。
この記事で確認できなかったこと
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 「知りながら告げなかった」の判断基準 | 条文に判断の枠組みは書かれていない |
| 宅地建物取引業者が売主の場合の特則 | 宅建業法に別の定めがあり、この記事では扱っていない |
| 消滅時効との関係 | 566条は通知の期間を定めるもので、時効は別の条文による |
| 565条(権利に関する不適合)の詳細 | 572条が引用しているが、この記事では本文を扱っていない |
| 実際の契約書での免責特約の書きぶり | 事業者ごとに異なるため、この記事では扱っていない |
まとめ
リースバックでは、住んでいた本人が売主になります。引き渡した建物が契約の内容に適合していなければ、買主は追完、代金減額、損害賠償、解除を請求できます。通知の期限は、買主が不適合を知った時から1年です。
契約書に担保責任の免責特約が入っていても、572条により、知りながら告げなかった事実と、自ら第三者のために設定し、または譲り渡した権利については責任を免れません。長く住んでいた分だけ、売主は建物の事情を知っている立場です。
条文は改正されます。契約にあたっては、e-Gov法令検索で現行の条文を確認したうえで、宅地建物取引士の説明と弁護士への相談を経てください。この記事は条文の内容を整理したもので、個別の事案についての法的助言ではありません。
この記事で参照した情報
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第562条・第563条・第564条https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(買主の追完請求権、代金減額請求権とその要件、損害賠償請求および解除権の行使を妨げないこと)
- e-Gov法令検索「民法」第566条・第572条https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(担保責任の期間の制限と例外、担保責任を負わない旨の特約でも免れない範囲)
2026年9月26日にe-Gov法令検索で条文を確認しました。条文の要旨は当サイトによる整理で、公式の解説ではありません。法令は改正されることがあります。個別の判断は専門家にご確認ください。














