リースバックの契約者が亡くなったら?賃借権も残置物も相続人へ。国交省・法務省のモデル契約条項で決めておくこと

賃借人が死亡した場合に、賃借権は民法896条で相続人が承継し、残置物の所有権も相続人へ移ることを2方向の分岐で示したアイキャッチ

リースバックの契約者が一人暮らしの高齢者であることは珍しくありません。そこで抜けやすいのが、契約者が亡くなったあとに賃貸借契約と家財がどうなるかです。売ってしまった家なので相続の話ではない、と思われがちですが、実際には賃借権も部屋に残った家財も相続の対象になります。国土交通省と法務省が公表した仕組みに沿って、何が誰に引き継がれるのかを整理します。

先に結論

賃貸借は死亡では終わりません。民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。賃借権も、家賃を払う義務も相続人へ移ります。

部屋に残った家財(残置物)も同じです。法務省は「賃借権と居室内に残された家財(残置物)の所有権は、その相続人に承継(相続)される」と説明しています。大家が勝手に処分することはできません。

相続人がいない、または所在が分からない場合に手続きが止まるため、国土交通省と法務省は2021年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しました。単身高齢者(60歳以上の者)の入居時に使うことが想定されています。

中身は2つの委任です。賃貸借契約を解除する代理権の授与と、残置物の廃棄や指定先への送付を委任する契約です。受任者は賃借人の死亡から一定期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後に処理します。

相続人がいないまま同居者がいる場合には、借地借家法36条が働きます。事実上夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者が、賃借人の権利義務を承継します。

賃借権は相続される。家賃の支払義務も一緒に移る

リースバックでは、自宅を売ったあと同じ家に賃借人として住み続けます。この賃借権は財産権なので、相続の対象です。

第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

ただし書の「一身に専属したもの」には当たりません。賃借権は相続され、同時に家賃を支払う義務も相続人に移ります。相続人が複数いれば、全員が賃借人の地位を共有する形になります。誰も住む予定がなくても、解約するまで家賃は発生します。

表1 契約者が亡くなったときに移るもの・残るもの
対象 どうなるか 根拠
賃借権(住み続ける権利) 相続人が承継する 民法896条
家賃の支払義務 相続人が承継する 民法896条
居室内の家財(残置物)の所有権 相続人が承継する 法務省の説明
敷金の返還請求権 相続人が承継する 民法896条
相続人がいない場合の同居者の地位 事実上の夫婦・養親子と同様の関係にあった同居者が承継する 借地借家法36条1項

相続人がいない場合の例外が借地借家法36条です。「居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する」と定めています。ただし相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に賃貸人へ反対の意思を表示すれば、承継しません。

e-Gov法令検索で表示した借地借家法のページの画面キャプチャ。平成三年法律第九十号として条文が表示され、左側に目次、右側に本則の条文が並んでいる
出典:e-Gov法令検索「借地借家法」(平成三年法律第九十号)第36条・第38条(laws.e-gov.go.jp)

国交省と法務省が2021年に出したモデル契約条項

相続人が承継すると決まっていても、相続人の有無や所在が分からなければ手続きは止まります。これが高齢者の入居が断られる理由のひとつになっていました。

法務省の報道発表資料の画面キャプチャ。令和3年6月7日法務省民事局として、残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定についてという見出しがあり、背景等と概要の欄に賃借人の死亡後に賃借権と残置物の所有権が相続人に承継されることや、想定される利用場面が単身高齢者(60歳以上の者)の入居時であることが書かれている
出典:法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」(令和3年6月7日、民事局)(www.moj.go.jp)

法務省の発表資料は背景をこう書いています。賃借人の死亡後、賃借権と居室内に残された家財(残置物)の所有権は相続人に承継されるため、相続人の有無や所在が分からない場合、賃貸借契約の解除や残置物の処理が困難になることがあり、特に単身高齢者に対して賃貸人が建物を貸すことを躊躇する問題が生じている、と。

そこで作られたのがモデル契約条項です。想定される利用場面は単身高齢者(60歳以上の者)の入居時、つまり賃貸借契約を結ぶときです。中身は2つに分かれます。

モデル契約条項が定める2つの委任

(1) 賃貸借契約の解除

受任者に対し、賃借人の死亡後に賃貸借契約を解除する代理権を授与します。相続人を探さなくても契約を終わらせる道をつくる部分です。

(2) 残置物の処理

受任者に対し、賃借人の死亡後に残置物の廃棄や指定先へ送付する事務を委任します。

処理のタイミング

受任者は、賃借人の死亡から一定期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後に、「廃棄しない残置物」以外のものを廃棄します。換価できる残置物は換価するように努める必要があります。

「廃棄しない残置物」をあらかじめ指定できる点が実務上は大きなところです。写真、仏壇、形見にしたい物などを、生前に自分で決めて書いておけます。

そのまま使える契約書式が4種類ある

国土交通省のページには、モデル契約条項そのものに加えて、使いやすい契約書式が並んでいます。利便性向上を目的として作成されたもので、PDF形式とWord形式の両方が置かれています。

国土交通省の残置物の処理等に関するモデル契約条項のページの画面キャプチャ。モデル契約条項のPDF形式とWord形式のリンク、使いやすい契約書式として1から4の書式、ガイドブックとリーフレットの案内が並び、活用ガイドブックは令和7年10月に第2版を作成したと表示されている
出典:国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(www.mlit.go.jp)
表2 国土交通省が公開している契約書式
番号 書式 使う場面
【1】 解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を同一の受任者との間で締結する1通の契約書式 2つの委任契約を同じ人に頼むとき
【2】 解除関係事務委任契約に関する契約書式 2つの委任契約を別の人に頼むとき(解除の分)
【3】 残置物関係事務委託契約に関する契約書式 2つの委任契約を別の人に頼むとき(残置物の分)
【4】 賃貸借契約書に盛り込む特約条項の記載例 上記の委任契約を前提に、賃貸借契約書へ関連条項を入れるとき

あわせて「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック」も公開されており、令和7年10月に第2版が作成されています。契約の締結から残置物への対応までをステップごとに解説した資料です。「<大家さんのための>単身入居者の受入れガイド」も同じ月に第5版が出ています。

モデル契約条項の使用は法令で義務づけられているものではありません。国土交通省も「その使用が法令で義務づけられているものではありませんが、モデル契約条項を利用することにより、合理的な死後事務委任契約等が締結され、ひいては、単身の高齢者の居住の安定確保が図られることを期待し、広く普及に努めています」と書いています。相手の会社が使っていなければ、こちらから持ち出す話です。

リースバック特有の事情が2つある

一般の賃貸と違って、リースバックでは売主と賃借人が同じ人です。そこから来る違いが2つあります。

リースバックで特に効いてくる点

家財が多い

長く住んできた自宅をそのまま借りる形なので、家財の量が通常の賃貸とは比べものになりません。残置物の処理を誰がどうするかを決めずに契約すると、相続人の負担が大きくなります。

買主が事業者である

貸主がリースバック事業者です。相続人が決まらないと部屋を次に回せないため、処理を急がれる可能性があります。生前に委任先を決めておくほうが、相続人にも主導権が残ります。

定期借家だと期限が重なる

定期借家契約は借地借家法38条により更新がありません。死亡の時期と期間満了が近いと、相続人は短い期間で判断を迫られます。

契約の種類によって残る期間が変わる点はリースバックは何年住めるかで扱っています。定期借家は38条3項により、契約前に「更新がなく期間の満了により終了する」ことを記載した書面を交付して説明する義務が貸主側にあります。

契約前に決めておくこと

必要なのは、亡くなったあとに誰が何をするかを先に決めることです。順番にすると5つです。

死亡後の処理を決めておく手順

  1. 受任者を決める
    賃貸借契約を解除する代理権と、残置物の処理を委任する相手です。推定相続人のほか、居住支援法人や管理業者などが想定されています。
  2. 2つの委任を1通にするか分けるか決める
    同じ人に頼むなら国土交通省の書式【1】、別の人に頼むなら【2】と【3】です。
  3. 「廃棄しない残置物」を指定する
    残しておきたい物を書き出します。受任者はこれ以外を廃棄する扱いになります。
  4. 送付先を決める
    廃棄しない残置物を誰のところへ送るかを決めておきます。
  5. 賃貸借契約書に特約を入れる
    国土交通省の書式【4】が記載例です。委任契約があることを賃貸借契約の側にも書いておきます。

リースバックの契約前に決めておく項目全体はリースバックで後悔しないためににまとめています。決めずに契約すると、契約書の側が決めることになります。

よくある質問

契約者が亡くなったら賃貸借契約は終わりますか。
終わりません。民法896条により、相続人が賃借権と家賃の支払義務を承継します。解約するまで家賃は発生します。
部屋に残った家財は大家が処分してよいのですか。
できません。法務省は、残置物の所有権も相続人に承継されると説明しています。だからこそ、生前に残置物の処理を委任しておく仕組みが用意されました。
モデル契約条項は誰と誰が結ぶものですか。
賃借人と受任者の間で結ぶ死後事務委任契約等です。国土交通省と法務省が2021年6月に策定し、単身高齢者(60歳以上の者)の入居時に使うことが想定されています。
いつ残置物を処分できますか。
受任者は、賃借人の死亡から一定期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後に、「廃棄しない残置物」以外のものを廃棄します。換価できるものは換価するよう努める必要があるとされています。
残したい物を指定できますか。
できます。「廃棄しない残置物」として指定したものは廃棄の対象から外れ、指定した送付先へ送られる扱いになります。
相続人がいない場合はどうなりますか。
借地借家法36条1項により、事実上夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者がいれば、その同居者が賃借人の権利義務を承継します。相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に賃貸人へ反対の意思を表示すれば承継しません。
モデル契約条項を使うことは義務ですか。
義務ではありません。国土交通省は、使用が法令で義務づけられているものではないとしたうえで、広く普及に努めていると書いています。
契約書式はどこで手に入りますか。
国土交通省のページに、モデル契約条項本体と4種類の契約書式がPDF形式とWord形式で公開されています。活用ガイドブックは令和7年10月に第2版が作成されました。

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