リースバックにクーリング・オフはある?宅建業法37条の2が守るのは買主、特商法の訪問購入は「物品」が対象

宅建業法37条の2が守るのは買主の側、特商法58条の4の訪問購入の対象は物品、と2つ並べたアイキャッチ

訪問を受けてその場でリースバックの契約書に署名してしまった。あとから考え直したい——このとき真っ先に思い浮かぶのがクーリング・オフです。ところが条文をたどると、リースバックの売主にはクーリング・オフの規定が原則として当たりません。消費者を守る2つの制度が、どちらも別の場面を想定して作られているためです。何が使えて何が使えないのかを、条文の文言のまま確かめます。

先に結論

宅地建物取引業法37条の2が守るのは「買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主」です。リースバックで家を手放す人は売主なので、この8日間の撤回は使えません。

特定商取引法の訪問購入にも8日間のクーリング・オフがありますが、対象は「物品」の購入(58条の4)です。不動産は物品ではないため、この章の規定は当たりません。

代わりに使える可能性があるのが消費者契約法の取消しです。期間は追認できる時から1年、契約締結から5年です。

2026年10月1日からは、賃貸借の条件を告げないことが宅建業法の禁止行為として扱われます。契約前の説明が不足していた場合の手がかりになります。

条文で守られる範囲が狭いぶん、署名する前に止めるほうが確実です。判断を急がせる言い方が出てきたら、その場で決めないでください。

宅建業法37条の2が守っているのは「買う側」

不動産取引で「8日間のクーリング・オフ」として知られているのが、宅建業法37条の2です。条文の主語を確かめます。

第三十七条の二 宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買契約について、当該宅地建物取引業者の事務所その他国土交通省令・内閣府令で定める場所(以下この条において「事務所等」という。)以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主(事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結した買主を除く。)は、次に掲げる場合を除き、書面により、当該買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除を行うことができる。

条件が二重になっています。宅建業者が自ら売主であること、そして撤回できるのは買主であることです。リースバックは、個人が売主で業者が買主という逆の形なので、この条文の射程に入りません。

e-Gov法令検索の宅地建物取引業法のページの画面キャプチャ。法令名と目次が表示されている
e-Gov法令検索の宅地建物取引業法。37条の2は第三章「業務」のうち、宅建業者が自ら売主となる場合の制限を並べた条文群に置かれている

同じ条文群には、損害賠償額の予定を代金の2割までに抑える38条や、手付の額を2割までに制限する39条も並んでいます。いずれも「宅地建物取引業者が自ら売主となる」場合の規定で、守られるのは買主です。78条2項は、これらの規定が宅建業者相互間の取引には適用されないとも定めています。

表1 宅建業法37条の2が定める撤回の条件
項目 条文の内容 リースバックの売主に当たるか
守られる人 買受けの申込みをした者、または売買契約を締結した買主 当たらない
相手方の条件 宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約 当たらない
場所の条件 宅建業者の事務所等以外の場所で申込みをした場合 —
期間 撤回できる旨と方法を告げられた日から起算して8日 —
効力が生じるとき 書面を発した時(2項) —
できなくなるとき 引渡しを受け、かつ代金の全部を支払ったとき —
特約の扱い 規定に反する特約で申込者等に不利なものは無効(4項) —

特定商取引法の訪問購入は「物品」が対象

では、業者が訪ねてきて買い取る形なのだから訪問購入の規定が使えるのではないか。ここも条文の言葉で決まります。

第五十八条の四 この章及び第五十八条の二十四第一項において「訪問購入」とは、物品の購入を業として営む者(以下「購入業者」という。)が営業所等以外の場所において、売買契約の申込みを受け、又は売買契約を締結して行う物品(…)の購入をいう。

訪問購入の章は、貴金属や着物などの押し買いを規制するために設けられたものです。条文が繰り返し「物品」と書いているとおり、不動産は対象外です。

e-Gov法令検索の特定商取引に関する法律のページの画面キャプチャ。目次に第五章の二 訪問購入が表示されている
e-Gov法令検索の特定商取引に関する法律。目次の第五章の二が訪問購入(第58条の4〜第58条の17)で、ここだけが買い取られる側を守る章になっている

参考までに、訪問購入のクーリング・オフは58条の14に置かれています。書面を受領した日から起算して8日で、書面または電磁的記録による通知を発した時に効力が生じ、解除をもって第三者にも対抗できます(ただし第三者が善意かつ無過失のときを除く)。この手厚い作りが不動産には用意されていない、というのが現状です。

図1 なぜリースバックは2つの制度のどちらからも外れるのか

宅建業法37条の2

想定しているのは、業者が売り、消費者が買う場面。

リースバックは消費者が売る側なので、立場が逆です。

特商法の訪問購入

想定しているのは、業者が消費者から物品を買い取る場面。

立場は合いますが、対象が物品に限られています。

リースバック

消費者が不動産を売る側。立場と対象の両方が、どちらの制度にもそろいません。

結果として、8日間の無条件撤回は使えません。

では何が使えるのか

無条件の撤回はありませんが、理由があれば契約を後から覆せる仕組みは別にあります。

表2 リースバックの売主が使える可能性のある制度
制度 使える場面 期間
消費者契約法4条の取消し 不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知、不退去・退去妨害など、法が並べる勧誘の型に当たるとき 追認できる時から1年、契約締結から5年
民法の契約不適合責任 売った側が負う責任。572条で免責できない「知りながら告げなかった事実」がある 566条の1年など
宅建業法35条・37条 重要事項説明と書面交付が行われていないとき。免許行政庁への申出につながる —
宅建業法のガイドライン 2026年10月1日以降、賃貸借の条件を告げないことが禁止行為として扱われる —

取消しの要件と期間はリースバックの契約は取り消せる?、売主が負う責任はリースバックの売主は契約不適合責任を負う、2026年10月1日のガイドラインはリースバックに国のガイドラインができたでそれぞれ扱っています。

どれも「理由を示して争う」仕組みです。クーリング・オフのように、気が変わったというだけで一方的に戻せる制度ではありません。署名の前に時間を取るほうが、はるかに手間が小さいという結論になります。

署名の前に止めるための手順

撤回の制度が薄いということは、契約前の数日が勝負になるということです。その場で決めないための手順を決めておきます。

図2 その日のうちに署名しないための5手

  1. 書面を持ち帰ると言う 売買契約書と賃貸借契約書の両方の案を渡してもらい、持ち帰ります。渡せないと言われたら、その時点で保留にします。
  2. 免許番号を確認する 宅地建物取引業の免許を受けているか、国土交通省の検索で調べます。手順は宅建業免許の確かめ方にあります。
  3. 賃貸借の種類と期間を見る 普通借家か定期借家か、期間は何年か、再契約の条件はどう書かれているかを読みます。
  4. 買戻しの文言を見る 買戻しの価格と期限が数字で入っているかを確かめます。入っていなければ約束ではありません。
  5. 相見積もりを取る 同じ条件で2社以上に出させ、家賃の総額と終了条件まで並べます。

特に押さえておきたいのが、賃貸借の条件です。2026年10月1日施行のガイドラインは、賃貸借の条件を告げないことを宅建業法の禁止行為として整理しました。説明がないまま進む契約は、いまは行政の監督の対象にもなりうるということです。

よくある質問

リースバックにクーリング・オフはありますか。
原則としてありません。宅建業法37条の2は買主を守る規定で、特定商取引法の訪問購入は物品が対象のためです。
自宅に訪問されて契約した場合も同じですか。
場所の条件は宅建業法37条の2の要件の一つですが、その前に「買受けの申込みをした者又は買主」という主語の条件があります。売主である以上、場所が自宅でも当たりません。
8日以内なら戻せると聞きました。
8日という期間は、宅建業法37条の2(告げられた日から起算)と特定商取引法58条の14(書面を受領した日から起算)に出てきます。どちらもリースバックの売主には当たりません。
契約書に「クーリング・オフできません」と書いてありました。
もともと当たらない制度なので、その記載の有無で結論は変わりません。なお宅建業法37条の2第4項は、同条の規定に反する特約で申込者等に不利なものを無効としていますが、これも買主についての規定です。
うそを言われて契約した場合はどうなりますか。
消費者契約法4条が並べる勧誘の型に当たれば、取り消せる可能性があります。期間は追認できる時から1年、契約締結から5年です。
家賃や期間の説明がありませんでした。
2026年10月1日施行のガイドラインは、賃貸借の条件を告げないことを宅建業法の禁止行為として扱います。免許行政庁への申出の対象になりえます。
どこに相談すればよいですか。
苦情は宅地建物取引業保証協会、法令違反は免許行政庁、争いは弁護士と、窓口が分かれます。
署名前に家族へ相談する時間をもらえますか。
もらえます。急がせる言い方が出た時点で、その場で決めない理由が一つ増えたと考えてください。

この記事が参照した一次情報

条文は e-Gov 法令検索で取得しました。改正があると内容が変わるため、実際の判断の前に最新の条文と専門家の確認を取ってください。この記事は特定の契約についての法律相談ではありません。

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