リースバックの契約にクーリング・オフはありません。では、勧誘のされ方に問題があった場合、契約を後から解く手立ては何もないのでしょうか。手立ては残っています。消費者契約法の取消しです。どういう勧誘なら取り消せるのか、期限はいつまでかを条文で確かめます。
先に結論
- 消費者契約法4条は、事業者の一定の行為で誤認したり困惑したりして申し込んだ意思表示を取り消せると定めています。
- 誤認の型には、重要事項について事実と異なることを告げる、将来の価額など不確実な事項に断定的判断を提供する、不利益な事実を故意または重大な過失で告げないがあります。
- 困惑の型には不退去・退去妨害のほか、判断力が著しく低下した人の不安をあおる行為(4条3項7号)が入っています。
- 期限は7条で決まっています。追認できる時から1年、契約締結の時から5年です。
- 使えるのは消費者と事業者の契約だけです(2条)。事業用の物件を事業のために売る場合は対象外になります。
クーリング・オフが使えない代わりに何が残るか
リースバックは、売主である自分が買主である不動産会社へ自宅を売る取引です。宅地建物取引業法37条の2のクーリング・オフは、宅建業者が売主となる取引を対象にしているため、リースバックにクーリング・オフはある?で整理したとおり、この場面では使えません。
ただし、契約を解く制度がそれだけではありません。消費者契約法は、勧誘の過程に問題があった場合に意思表示の取消しを認めています。宅建業法とは別の法律なので、宅建業法で救われないケースでも検討する余地があります。
まず「消費者契約」に当たるかを確かめる
この法律が働くのは、消費者と事業者の間の契約に限られます。定義は2条にあります。

1項の「消費者」は個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)です。自宅を売って住み続けるリースバックは、通常この定義に収まります。いっぽう、所有する賃貸物件を法人名義で売却してリースバックするような取引は、事業のための契約として対象から外れます。
3項の「消費者契約」は消費者と事業者との間で締結される契約です。買主が不動産会社であれば事業者にあたります。まずここが出発点になります。
取り消せる勧誘は「誤認」と「困惑」に分かれる
4条は取消しができる場合を並べています。大きく、誤認させられた場合と、困惑させられた場合に分かれます。
図1 消費者契約法4条が並べる取消しの型(リースバックで起きうるもの)
重要事項について事実と異なることを告げること。「家賃は上がらない」と言い切るなど
将来の価額など変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。「数年後に必ず同じ値段で買い戻せる」など
利益になる旨を告げたうえで、不利益な事実を故意または重大な過失で告げないこと。定期借家で再契約できない可能性を伏せるなど
退去すべき旨の意思を示したのに、住居などから退去しないこと
勧誘している場所から退去する旨の意思を示したのに、退去させないこと
加齢や心身の故障で判断力が著しく低下していることから生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、契約しなければ生活の維持が困難になる旨を告げること
意思表示の前に目的物の現状を変更するなどして、原状の回復を著しく困難にすること
リースバックの相談で目立つのは3項7号です。条文は「加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること」と書いています。
「このままでは生活が立ち行かない」と迫る勧誘は、条文が名指しで挙げている型です。本人が高齢で判断力が落ちていること、そこに生活への強い不安があることを相手が知っていた、という事情がそろえば、取消しの検討対象になります。国民生活センターに寄せられた相談の傾向はリースバックのトラブルで何が起きている?にまとめました。
1項2号も見落とせません。買い戻しの話は、将来の価額という「変動が不確実な事項」そのものです。断定的な言い方で説明されていたなら、ここに当たる可能性があります。買い戻しの仕組み自体の限界はリースバックの「買戻し」はどこまで確実かで扱っています。
期限は1年と5年
取消権はいつまでも使えるわけではありません。7条が期間を決めています。

第七条 第四条第一項から第四項までの規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間(同条第三項第八号に係る取消権については、三年間)行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年(同号に係る取消権については、十年)を経過したときも、同様とする。
起算点が2つあります。追認できる時から1年と、契約締結の時から5年です。どちらか早いほうで権利は消えます。「おかしい」と気づいた時点から1年というのは、思っているより短い期間です。不動産の取引は、引渡し後に家賃の請求や更新の案内が来て初めて問題に気づくことも多く、気づいてから相談先を探しているうちに1年が経ちます。
| 手段 | 根拠 | リースバックでの可否 | 期限 |
|---|---|---|---|
| クーリング・オフ | 宅建業法37条の2 | 宅建業者が売主の取引が対象。売主が自分なので使えない | — |
| 消費者契約法の取消し | 消費者契約法4条 | 消費者契約に当たり、勧誘が条文の型に該当すれば検討できる | 追認できる時から1年/契約時から5年 |
| 不当条項の無効 | 消費者契約法10条 | 条項単位で無効を主張できる | 条文に期間の定めはない |
| 契約不適合責任 | 民法566条ほか | 売主である自分が負う側。買主から請求される立場 | 不適合を知った時から1年以内の通知 |
契約書の条項そのものを争う道もある
取消しは勧誘のされ方を問題にしますが、契約書に書かれた条項自体を争う規定もあります。10条です。

10条は、消費者の不作為をもって新たな申込みをしたとみなす条項をはじめ、任意規定の適用に比べて消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項であって、民法1条2項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています。
取消しの1年・5年が過ぎていても、個々の条項について10条で争う余地は残ります。契約書を読み返すときは、勧誘の記憶だけでなく、条項の書きぶりも見ておいてください。
| 種類 | なぜ必要か |
|---|---|
| パンフレット・チラシ・提案書 | どんな説明がされたかを示す。断定的な表現が残っていることがある |
| 訪問や電話の日時の記録 | 不退去・退去妨害が問題になる場合に、経過を示す材料になる |
| 売買契約書と賃貸借契約書の両方 | 賃貸借の種類と期間、再契約の定めを確認する |
| 重要事項説明書 | 何が説明され、何が説明されなかったかの手がかりになる |
| やり取りのメール・メッセージ | 口頭の説明を裏づける、または食い違いを示す |
重要事項説明でどこまで説明されるべきかはリースバックの重要事項説明はどこまで受けられる?に整理しています。2026年10月1日に施行される国のガイドラインで説明事項が整理された点はリースバックに国のガイドラインができたをご覧ください。
この記事で確認できなかったこと
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| リースバックで取消しが認められた裁判例 | この記事では条文の確認にとどめ、個別の裁判例にはあたっていない |
| 「判断力が著しく低下」の判断基準 | 条文に定義はない。どの程度をいうかは個別の判断になる |
| 追認できる時がいつか | 条文は起算点の内容を定めていない。事案ごとに異なる |
| 取消し後の登記や代金の扱い | 原状回復の具体的な進め方は、この記事では扱っていない |
| 事業用物件の線引き | 2条の「事業のために」に当たるかどうかの判断は、この記事では踏み込んでいない |
取消しを主張するかどうかは、勧誘の事実関係を積み上げて判断することになります。条文の型に心当たりがあるなら、1年という期限を意識して、早めに消費生活センターや弁護士へ相談してください。
まとめ
リースバックにクーリング・オフはありませんが、消費者契約法の取消しは残っています。4条は、重要事項について事実と異なることを告げる、将来の価額に断定的判断を提供する、不利益な事実を告げない、といった誤認の型と、不退去・退去妨害・判断力が低下した人の不安をあおるといった困惑の型を並べています。
使えるのは消費者と事業者の契約に限られ、期限は追認できる時から1年、契約締結の時から5年です。期限を過ぎても、契約書の個々の条項については10条で無効を主張する道が残ります。
どの型に当たるかを自分で決める必要はありません。何をどう説明されたのかを書き出し、手元の書面をそろえたうえで相談するのが現実的な進め方です。
この記事で参照した一次情報
- e-Gov法令検索「消費者契約法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061(第2条 定義、第4条1項1号・2号、同2項、同3項1号・2号・7号・9号、第7条 取消権の行使期間等、第10条 消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176(第37条の2 事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等)
条文は2026年9月26日にe-Gov法令検索で確認しました。条文は改正されることがあります。この記事は制度の説明であり、個別の契約についての法律上の助言ではありません。取消しの可否は事実関係によって変わりますので、消費生活センターや弁護士にご相談ください。














