相続で兄弟と分け合った家、夫婦の共有名義で買った自宅。これらをリースバックに出そうとすると、最初の関門は業者の審査ではありません。共有者全員の同意です。売却は民法が「共有物の変更」として扱う行為で、1人でも反対すれば進みません。ただし、条文には同意が取れないときの道も用意されています。順番に確認します。
先に結論
- 共有不動産の売却は、民法251条1項により他の共有者の同意が必要です。持分の過半数では足りません。
- 自分の持分だけを売ることは可能ですが、家に住み続ける前提のリースバックは成立しにくくなります。
- リースバック後の賃貸借は、持分の過半数で決められるのが建物なら3年以内まで(民法252条4項3号)。それを超える契約は全員の同意が要ります。
- 共有者の所在が分からない場合、裁判所に持分の取得(262条の2)または譲渡権限の付与(262条の3)を請求できます。
- 反対されて話がまとまらないときは、共有物の分割請求(256条・258条)という道があります。
売却は「変更」だから全員の同意が要る
共有物に対してできることは、条文上3つに分かれています。保存行為、管理に関する事項、そして変更です。それぞれ必要な同意の重さが違います。

| 行為の種類 | 必要な同意 | 根拠 | リースバックでの例 |
|---|---|---|---|
| 変更 | 他の共有者の同意(全員) | 民法251条1項 | 家を売る。抵当権を設定する |
| 管理に関する事項 | 持分の価格に従い、その過半数 | 民法252条1項 | 3年以内の建物賃貸借の設定 |
| 保存行為 | 各共有者が単独でできる | 民法252条5項 | 雨漏りの応急修理、登記名義の更正 |
| 持分の処分 | 自分だけで決められる | 持分は各共有者の権利 | 自分の持分だけを第三者へ売る |
251条1項は「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができない」と定めています。売却は所有権そのものを移す行為なので、この「変更」にあたります。持分が5分の4あっても、残り5分の1の共有者が反対すれば、家全体を売ることはできません。
持分だけを売る方法はあるが、住み続けられない
共有者は自分の持分を単独で処分できます。だから「自分の持分だけをリースバック業者に買ってもらう」という発想も出てきます。ただ、これは実務でほぼ成立しません。
持分だけを買っても、その不動産を自由に使えるわけではありません。引き受ける業者は限られ、価格も大きく下がります。
リースバックは「売ったあと借りて住む」仕組みです。賃貸借の設定は管理行為にあたるため、持分の過半数の合意が要ります。
買い手が新たな共有者として入るだけで、家の使い方をめぐる話し合いは続きます。もめごとの解消にはなりません。
民法249条2項により、持分を超えて共有物を使う共有者は、別段の合意がある場合を除き他の共有者へ対価を償還する義務を負います。
つまり「家に住み続けたまま資金化する」というリースバックの目的を達するには、原則として全員の同意を取って家全体を売るしかありません。同意が取れる見込みがないなら、他の選択肢を先に比べるほうが時間を無駄にしません。
賃貸借の期間にも上限がある
見落とされやすいのが、売ったあとの賃貸借契約です。民法252条4項は、持分の過半数で設定できる賃借権等の期間に上限を置いています。
| 対象 | 持分の過半数で設定できる期間の上限 |
|---|---|
| 樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃借権等 | 10年 |
| 上記以外の土地の賃借権等 | 5年 |
| 建物の賃借権等 | 3年 |
| 動産の賃借権等 | 6か月 |
建物は3年です。リースバックの賃貸借を3年を超える期間で結ぶなら、管理行為の枠を超えるため全員の同意が必要になります。定期借家契約で長めの期間を設定したい場合は、この上限を意識してください。定期借家契約の仕組みと合わせて確認しておくと、契約書を読むときに迷いません。
もっとも、リースバックの多くは買主が単独所有者になったあとの賃貸借です。売却の時点で共有が解消されていれば、この上限は関係なくなります。問題になるのは、共有のまま賃貸に出そうとする場合です。
共有者の所在が分からないとき
相続を何代か経た家では、共有者の一部と連絡が取れないことがあります。2023年に施行された改正民法は、この場合の手続きを用意しました。

| 条文 | できること | 注意点 |
|---|---|---|
| 民法251条2項 | 他の共有者を知ることができない、または所在を知ることができないとき、裁判所が、その者以外の同意を得て変更を加えられる旨の裁判をする | 裁判所への請求が必要 |
| 民法252条2項 | 所在不明の共有者がいるとき、または催告しても賛否を明らかにしないときに、その者以外の持分の過半数で管理に関する事項を決められる旨の裁判をする | 相当の期間を定めた催告が前提になる場合がある |
| 民法262条の2 | 裁判所が、請求した共有者に所在等不明共有者の持分を取得させる裁判をする | 相続財産に属し、相続開始から10年を経過していない場合はできない。所在等不明共有者は時価相当額の支払を請求できる |
| 民法262条の3 | 他の共有者全員が特定の者へ持分全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を裁判所が付与する | 同じく相続開始から10年の制限がある。譲渡後、所在等不明共有者は按分した額の支払を請求できる |
262条の3は、リースバックのように「全体を1人の買主へ売る」場面を想定した規定です。他の共有者が全員譲渡することを条件に、所在の分からない共有者の持分も一緒に動かせます。ただし裁判所の手続きを経るため、時間はかかります。急いで資金化したい事情があるなら、この段階で別の手段も並行して検討しておくべきです。
反対されたときの最後の道
所在は分かっているが反対されている、という場合に使えるのが分割請求です。民法256条1項は「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」と定めています。ただし、5年を超えない期間で分割をしない旨の契約をすることは妨げられません。
協議が調わないとき、または協議ができないときは、裁判所に分割を請求できます(258条1項)。裁判所が命じられる方法は2つで、現物を分割する方法と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法です。どちらもできないとき、または分割によって価格を著しく減少させるおそれがあるときは、競売が命じられます(258条3項)。
競売になれば、住み続けるという前提は崩れます。分割請求は関係を決着させる手段ではありますが、リースバックの目的とは方向が逆です。話し合いで折り合う余地があるうちに、家賃と売却価格の条件を具体的な数字で示して交渉するほうが、結果は良くなります。相見積もりで条件を並べる手順が、その材料になります。
進め方の順番
実務では、次の順に手をつけると手戻りが出ません。
| 順番 | やること | 確認するもの |
|---|---|---|
| 1 | 共有者と持分割合を確定する | 登記事項証明書の甲区。相続登記が済んでいない場合は先に登記が必要 |
| 2 | 全員の連絡先を押さえる | 連絡が取れない人がいるかどうかで、その後の手続きが大きく変わる |
| 3 | 売却価格と家賃の条件を作る | 数字がないと同意の判断材料にならない。複数社から条件を出させる |
| 4 | 全員の同意を取る | 売買契約の当事者は共有者全員になる。委任状で代表者がまとめる形が一般的 |
| 5 | 取れない場合の手段を選ぶ | 所在不明なら262条の2・262条の3、反対なら256条・258条 |
1番目を飛ばす人が多くいます。自分が把握している共有者と、登記に載っている共有者が食い違うことは珍しくありません。数字の話を始める前に、登記を取り寄せてください。
よくある質問
持分の過半数があれば売れますか
売れません。売却は民法251条1項の「変更」にあたり、他の共有者の同意が必要です。過半数で決められるのは管理に関する事項です。
自分の持分だけをリースバック業者に売れますか
持分の処分自体は単独でできますが、住み続けることを前提としたリースバックとしては成立しにくくなります。買い手も限られ、価格も下がります。
夫婦の共有名義でもリースバックできますか
夫婦2人が共有者であれば、2人の同意で足ります。共有者が増えるほど難易度が上がるだけで、共有そのものが障害になるわけではありません。
共有者の1人が認知症の場合はどうなりますか
判断能力の状況によっては、成年後見人等の選任が必要になります。同意を得たという形だけ整えても、後で契約の効力が争われる可能性があります。
行方不明の共有者がいます。あきらめるしかありませんか
民法262条の2または262条の3により、裁判所に請求する道があります。ただし相続財産に属する持分で、相続開始から10年を経過していない場合は使えません。
賃貸借契約は何年まで結べますか
持分の過半数で設定できるのは、建物なら3年を超えない期間です(民法252条4項3号)。それより長い期間にするなら全員の同意が必要になります。
共有者の1人が住み続けている場合、家賃のような負担はありますか
民法249条2項は、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うと定めています。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第249条・第251条・第252条・第256条・第258条・第262条の2・第262条の3














