リースバックと競売の違い|決めるのが当事者か裁判所か。引き返せるのは買受けの申出が入るまで

リースバックと競売は、同じ「家を手放す」話でも、決める人が違います。リースバックは当事者どうしの合意で成り立つ取引、競売は裁判所が手続を進めるものです。そして競売が進むほど、こちらが選べる幅は狭くなっていきます。どこまでなら間に合うのか、どの段階で何が決まるのかを、民事執行法の条文で追います。

先に押さえる四点

競売は債権者の申立てにより執行裁判所が開始決定をし、不動産を差し押さえる旨を宣言する手続です(民事執行法45条1項)。

買受けの申出の額は、売却基準価額からその10分の2を控除した価額(買受可能価額)以上であればよいとされています(同法60条3項)。安く落ちる余地が制度として組み込まれています。

売却により抵当権は消滅し、抵当権に対抗できない賃借権も効力を失います(同法59条1項・2項)。競売後にそのまま借り続けられる保証はありません。

買受けの申出があったあとに申立てを取り下げるには、最高価買受申出人または買受人の同意が必要です(同法76条1項)。入札が入った時点で、事実上の締切を越えます。

まず、二つの取引は並べて選ぶものではない

「リースバックか競売か」という問いは、正確には成り立ちません。競売は選ぶものではなく、支払いが止まった結果として債権者が申し立てるものだからです。こちらが選べるのは、競売になる前に別の道へ移せるかどうかです。

また、リースバックは任意売却の一種というわけでもありません。任意売却は、売却代金で債務を返しきれない場合に、抵当権者の同意を得て通常の売買として売る枠組みを指します。リースバックは「売ったあとも売主が借りて住み続ける」形の呼び名で、残債が売却額を下回る通常の場面でも成り立ちます。両方が重なることはありますが、同じものではありません。

比べる点 リースバック 競売
誰が進めるか 売主と買主の合意。当事者が決める 執行裁判所。債権者の申立てにより開始決定がされる(民事執行法45条1項)
買主が誰になるか 契約の相手として自分で確かめられる 入札で決まる。誰が買受人になるかは事前に分からない
価格の決まり方 査定と交渉 評価人の評価に基づく売却基準価額。買受けの申出は買受可能価額以上であればよい(同法60条)
売却後の居住 賃貸借契約を結んで住み続ける 買受人の判断。抵当権に対抗できない賃借人には民法395条の6か月の猶予のみ
物件情報の扱い 直接買取なら広告は出ない 物件明細書が一般の閲覧に供される(民事執行法62条2項)
引き返せる時点 契約を結ぶまで 買受けの申出後の取下げには買受人等の同意が要る(同法76条1項)

競売で価格が下がるのは、制度にそう書かれているから

競売で市場より安く落ちやすい理由は、感覚ではなく条文で説明できます。民事執行法60条1項は、執行裁判所が評価人の評価に基づいて売却基準価額を定めると規定しています。そして同条3項は、買受けの申出の額を「売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(買受可能価額)以上」とします。つまり、売却基準価額の8割の水準から入札が成立しうるということです。

資料:民事執行法60条。3項で、買受けの申出の額は売却基準価額からその10分の2を控除した価額以上と定められている
e-Gov法令検索で表示した民事執行法第60条の画面キャプチャ。売却基準価額と買受可能価額の関係が書かれている

加えて、買受人は室内を見て買えるわけではありません。占有者が残っている可能性、引渡しに手間がかかる可能性を織り込んだ価格になります。売る側から見れば、その分だけ手取りが減り、残る債務が増えるということです。

競売の手続と、引き返せる期限

図:段階ごとに、何が決まり、何がまだ動かせるか

STEP 1

開始決定・差押え

執行裁判所が開始決定をし、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言します。開始決定は債務者に送達されます(民事執行法45条1項・2項)。この段階では、まだ任意売却へ切り替える交渉の余地があります。

STEP 2

評価・売却基準価額の決定

評価人の評価に基づいて売却基準価額が決まります(同法60条1項)。裁判所書記官は物件明細書を作成し、その写しを一般の閲覧に供します(同法62条)。

STEP 3

売却の実施・公告

売却の方法は入札または競り売りなどで、裁判所書記官が売却すべき不動産の表示、売却基準価額、売却の日時と場所を公告します(同法64条)。

STEP 4

買受けの申出

ここが分かれ目です。買受けの申出があったあとに申立てを取り下げるには、最高価買受申出人または買受人および次順位買受申出人の同意を得なければなりません(同法76条1項)。

STEP 5

代金納付

買受人は代金を納付した時に不動産を取得します(同法79条)。抵当権は消滅し、対抗できない賃借権も効力を失います(同法59条1項・2項)。

STEP 6

引渡命令

買受人は代金納付の日から6か月(買受けの時に民法395条1項の抵当建物使用者が占有していた建物では9か月)を経過すると引渡命令を申し立てられなくなります(同法83条2項)。

「まだ間に合う」と言えるのは、買受けの申出が入る前までです。それ以降は、取下げに買受人等の同意という別の条件が加わります。開始決定の通知を受け取ったら、まず抵当権者と話せる状態を作ってください。順番は代位弁済後にリースバックはできるかにまとめています。

競売のあとに、そのまま借りて住み続けられるか

買受人が了解すれば、賃貸借を結んで住み続けること自体は可能です。ただし、それは交渉の結果であって、権利として認められているものではありません。誰が買受人になるかは入札の結果で決まるため、事前に相手を選べません。

法律が用意しているのは、明渡しを少し先に延ばす仕組みだけです。民法395条1項は、抵当権者に対抗することができない賃貸借によって建物を使用している者のうち、競売手続の開始前から使用している者などについて、買受人の買受けの時から6か月を経過するまで建物を引き渡すことを要しないと定めています。ただし同条2項により、買受けの時より後に建物を使用したことの対価について、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がないときは、この猶予は適用されません。

場面 住み続けられるか 根拠
リースバックで売った 賃貸借契約の期間にわたって住める。建物の引渡しを受けていれば所有者が替わっても賃借権を主張できる 借地借家法31条。同条は37条の強行規定
抵当権が残ったまま賃借人になり、競売になった 売却により賃借権が効力を失う。残るのは6か月の引渡し猶予だけ 民事執行法59条2項、民法395条1項
競売で買受人が決まったあとに交渉する 買受人が応じれば可能。応じる義務はない 契約自由の原則
6か月の猶予中に対価を払わなかった 猶予が外れる 民法395条2項

競売になる前に動くなら、順番がある

選択肢が残っているうちに動くほど、条件は良くなります。残債が売却額を下回るなら通常の売却やリースバックが選べますし、上回る場合でも、抵当権者の同意が得られれば任意売却として進められます。滞納が始まった時点から何が選べるのかは、住宅ローンが払えないときの選択肢で段階ごとに示しています。任意売却の手続そのものは任意売却とは、リースバックとの関係はリースバックと任意売却は比べるものではないで扱っています。

残債と抵当権の関係はリースバックと抵当権、相談先の分け方はリースバックの相談先はどこ?を参照してください。

よくある質問

競売にかけられてもリースバックはできますか

買受人が応じれば賃貸借を結ぶことはできますが、権利として認められているものではありません。誰が買受人になるかは入札で決まるため、事前に相手を選べない点が、当事者どうしで進めるリースバックとの決定的な違いです。

競売は本当に安くなるのですか

民事執行法60条3項は、買受けの申出の額を売却基準価額からその10分の2を控除した価額以上としています。制度として、売却基準価額を下回る水準での落札が想定されています。

いつまでなら競売を止められますか

買受けの申出があったあとに申立てを取り下げるには、最高価買受申出人または買受人および次順位買受申出人の同意が必要です(民事執行法76条1項)。それ以前であれば、申立てをした債権者の判断で取り下げられる余地があります。

競売で家が売れたあと、すぐ出ていかなければなりませんか

抵当権に対抗できない賃借人であれば、買受けの時から6か月を経過するまで引き渡すことを要しません(民法395条1項)。ただし、買受人から使用の対価の支払を催告され、期間内に払わなければこの猶予は適用されません(同条2項)。

競売にかけられていることは周囲に知られますか

裁判所書記官は物件明細書を作成し、その写しを一般の閲覧に供しなければならないとされています(民事執行法62条2項)。また、売却の日時と場所などは公告されます(同法64条5項)。

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