マイホームを持っていて、資金が必要になる状況では「不動産リースバック」と「通常の任意売却」が選択肢に上がることが少なくありません。では、不動産リースバックと通常の任意売却は何が違うのか?どちらを選ぶべきなのか?を比較しながら、丁寧に解説します。
不動産リースバックと任意売却は、どちらかを選ぶものではない!
そもそも、任意売却とは?
任意売却とは
を言います。
通常の不動産売却では
という状態でないと、不動産は売却できません。
なぜなら、住宅ローンを借りている状態(抵当権が設定されている状態)では、不動産は売却できないので、債権者に抵当権を外してもらわなければならないのですが、借金を完済してくれないのに抵当権は外してもらえないからです。
買う側としても、抵当権、つまり借金が残った状態で物件を購入してしまったら、借金も引き継ぐことを意味しているので、売買は成立しないのです。
しかし、住宅ローンが払えない状態になっている方の場合は
という状態であっても
という思惑が債権者(銀行や保証会社、債権回収会社)に生まれます。
そのまま住宅ローンが払えない状態が進むと「競売」になり、競りの形で売却することになりますが、そうなる前に売却する「任意売却」であれば、「競売」よりも高く売れる可能性が出てくるからです。
「競売」よりも高い価格で売却できるのであれば、「競売」で売ってしまった方が良いという判断を債権者(銀行や保証会社、債権回収会社)がすれば、「住宅ローン残高 > 売却額という状態」であっても売却ができるのです。
これを「任意売却」と呼びます。
通常の不動産リースバックも、借金が完済できなければ利用できない
不動産リースバックとは
を言います。
通常の不動産売却と同じく、不動産リースバックでも
という状態でないと、不動産リースバックは利用できないのが一般的です。
買い手がリースバック業者になっただけなのですから、リースバック業者も、借金が残った状態で自宅を売却されても困るため
住宅ローン残高 > 売却額 → リースバックは利用できない
ということになるのです。
不動産リースバックと任意売却は、どちらかを選ぶものではない!
つまり、
住宅ローンの支払いが問題ない方の場合
住宅ローン残高 < 売却額の場合
- 不動産リースバック
- 不動産売却
住宅ローン残高 > 売却額の場合
- 売却不可
- 住宅ローンの不足分を自分の資産から捻出して返済することで売却可能
という選択肢があるため、「どちらかを選ぶ」という判断が可能になります。
しかし、
住宅ローンの支払いができない方の場合
- 任意売却
- 任意売却をしなければ自動的に競売
という選択肢になるため、
「不動産リースバック or 任意売却」というジャッジではなく、「任意売却 or 競売」というジャッジが必要になるのです。
つまり、
「不動産リースバック」は「任意売却」と比較検討するものではない
ということになります。
任意売却でも、リースバックは可能!?
不動産リースバックとは
を言います。
しかし、広義の意味では
不動産リースバックとは
ですので
リースバック業者でなくても良いのです。
不動産リースバック業者の場合は、「任意売却によるリースバック」を認めていないため
になっています。
しかし、任意売却で売却先となる個人投資家などにしてみれば
とリースバックを認めてくれることが多いのです。
個人投資家が任意売却でリースバックを認めてくれる理由
1.賃貸で借りてくれる人を探さなくて良いから
個人投資家は、任意売却で物件を購入したら、賃貸物件のサイトに掲載し、賃貸で借りる人を探します。
- 賃貸人を探すためには、不動産業者に仲介手数料・広告費を支払う必要があります。
- 賃借人を探すためには、数カ月の時間が必要になり、その間の家賃収入が入ってきません。
リースバックで任意売却した人がそのまま住んでくれれば
- 不動産業者に支払う仲介手数料 → 不要
- 不動産業者に支払う広告費 → 不要
- 空室による家賃収入 → 空室期間がなくなる
という大きな金銭的メリットがあるのです。
2.退去費用を出さなくて良いから
任意売却の場合は、買い手が売り手に対して、退去費用を支払うことが通例になっています。
というのも、
売り手は、住宅ローンが払えないほどお金に困った状態であり、任意売却で受け取った売却額もそのまま住宅ローンの返済に充てなければなりません。つまり、手元にお金がほとんどない方が多いのです。
速やかに売却してもらうため、買い手は、売り手に対して、退去費用・引っ越し費用として、20万円~30万円を手渡すことになっているのです。
法的な決まりはありませんが、通例として、この条件を呑める方を優先的に任意売却の買い手とすることが多いです。
リースバックでそのまま済み続けてくれるのであれば「退去・引っ越し」の必要性はありません。
以上の理由から、任意売却をするときに「リースバック(売却後に済み続けること)」を希望するのであれば、買い手との交渉によって、「リースバック」が認められる可能性が高いのです。
任意売却する方は、リースバックを希望する場合は、任意売却を依頼した不動産業者に「リースバックを希望します。」と伝えるだけで、対応してくれます。
任意売却時にリースバックをするメリット
1.愛着のある自宅に住み続けられる
これは、通常の不動産リースバックと同じですが
リースバックをすることによって、愛着のある元自宅に住み続けることが可能です。
任意売却のフェーズに来てしまうと、同居しているご家族に内緒で進めることは、ほとんど難しいですが、ご近所には知られずに済むことができます。
2.退去・引っ越し、新居の契約に伴うコストが不要
任意売却時にリースバックをせずに退去することになれば
- 引っ越し費用
- 不用品の売却費用
- 新居の契約費用(不動産仲介手数料、前払い家賃、保証会社へ支払う保証料、敷金・礼金)
- 家具の買いなおし(カーテンなど)
というコスト負担が発生します。
任意売却時に退去費用がもらえる可能性もありますが、これは絶対もらえるものではありません。
3.新居が借りられないリスク回避
を意味します。
住宅ローンの支払いができない段階で、個人信用情報には「滞納している」ことが明記されてしまいます。
そうなると、賃貸物件を探すのにも苦労します。賃貸物件のオーナーは、賃貸契約を締結するときに保証会社を通すのが一般的です。保証会社が審査時に個人信用情報を見て、「この方は保証できない」となってしまえば、新居は借りられないのです。
任意売却時にリースバックをする注意点
1.買い手の方によっては、リースバックを断られる可能性もある
売り手側が任意売却時にリースバックを希望しても、100%の確率で、買い手がリースバックを受け入れてくれるとは限りません。
なぜなら、
と考える買い手の方も少なくないからです。
リースバックで契約した場合には、リースバック後は「家賃」が発生するため、「家賃」を支払う義務が出てきます。
対策
- 保証人、保証会社を立てること
- 返済する方法を明示すること
などで、買い手がリースバックを許容しやすい「家賃の確実な支払い」を約束する必要があります。
2.家賃を支払えるかどうか?が重要
いくら愛着のあるマイホームに住み続けたいといっても、実際に家賃が支払えるかは別問題です。
リースバックを選択して
- 退去費用・引っ越し費用を付け取らない
- 家賃を支払う
ことになったのに
となってしまうと、結局退去しなければならなくなります。
一回、リースバックしてから家賃滞納、家賃未納で退去する場合には「退去費用・引っ越し費用」も払われないのです。
しかも、任意売却を債権者(銀行や保証会社、債権回収会社)が認めてくれたからと言って、任意売却で売却したお金を債権者に支払えば、残りの借金がチャラになるわけではありません。不足分は、今後返済していかなければならないのです。
家賃の支払いに不安があるのであれば、リースバックを選択せずに
- 退去費用・引っ越し費用を受け取る
- 家賃が安いところに引っ越す
方法を取った方が負担は少ない可能性があるのです。
任意売却する(住宅ローンの返済ができなくなる)状態では、安易にリースバックを選択することはおすすめしません。返済に負担がない場所(ご家族や兄弟との同居、家賃の安い賃貸物件)に引っ越す方が今後の生活は楽になる可能性が高いのです。
3.買戻しはできない可能性も高い!
通常の不動産リースバックの場合は
不動産リースバック業者が、リースバック用にサービスを設計しているため
- 自宅に住み続ける
- 退去する
- 買い戻す
という選択肢が、リースバックの契約時に定められています。
「買戻し」をしようとすれば、いつでも、契約書に定められた買戻し額を支払うことで、買戻しができるようになっているのです。
しかし、任意売却の場合は
リースバックを前提にしたものではありません。
そのため、「リースバックをさせてほしい。」ということに買い手が同意してくれたとしても、「買戻しも認めてほしい。」という点には、同意してもらえない可能性が高いのです。
まとめ
不動産リースバックと任意売却は比較するものではありません。
住宅ローンの支払いに問題のない方は
- 通常の不動産売却か?
- 不動産リースバックか?
の選択になるからです。
住宅ローンの支払いができない方の場合にのみ
- 任意売却
という選択肢が出てきて
任意売却時に買い手の方がリースバックを認めてくれれば、リースバックとして元自宅に住み続けることができる
ということになります。
任意売却時にリースバックをするメリットには
- 愛着のある自宅に住み続けられる
- 退去・引っ越し、新居の契約に伴うコストが不要
- 新居が借りられないリスク回避
というものがあり、
任意売却時にリースバックをするデメリットには
- 買い手の方によっては、リースバックを断られる可能性もある
- 家賃を支払えるかどうか?が重要
- 買戻しはできない可能性も高い!
というものがあります。
「不動産リースバックと通常の任意売却のメリットデメリットを教えてください。」
「私は、不動産リースバックと通常の任意売却のどちらを選ぶべきですか?」