リースバックは、家を売ってそのまま住み続ける契約です。売買と賃貸借がひとつながりになっているのに、これまでは「売ったあとにいくらの家賃で、いつまで住めるのか」を売主へ告げる義務の線引きがはっきりしていませんでした。国土交通省が2026年10月1日施行でその線を引きました。
- 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課が、令和8年10月に「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(リースバックに関するガイドライン)」を出し、令和8年10月1日から施行しました。全8ページの文書です。
- いちばん大きい変更は、賃貸借の条件も「売主の判断に重要な影響を及ぼす事項」に当たると明示したことです。告げるべき事項として、売買で4項目、賃貸借で15項目が列挙されています。
- 背景にあるのは相談件数です。ガイドラインの脚注は、消費生活センター等への相談を令和4年度116件、令和5年度227件、令和6年度242件、令和7年度214件と記しています。
- 故意に告げなければ宅地建物取引業法第47条第1号に抵触し、指示・業務停止命令・免許取消しのほか、法第79条の2により拘禁刑か罰金刑、またはその併科の可能性があります。過失で告げなかった場合も法第31条第1項(信義誠実義務)に抵触するおそれがあるとされています。
- 義務ではないが「対応することが望ましい事項」として、売買価額と借賃の額の算定根拠の説明と、売却代金が賃料等の何か月分に相当するかの説明が挙げられています。
どの取引に効くのか
ガイドラインは、自分の守備範囲を限定して書いています。対象は、宅建業者の相手方等の居住の用に供されている宅地建物の売買とその賃貸借が契約関係として不可分一体となっており、かつその売買の買主が宅建業者であるもの、または売買を宅建業者が媒介もしくは代理するものです。

抜け道をふさぐ書き方もされています。売買と賃貸借の各契約の締結の時期が違っても、買主と貸主が同一でなくても、売買後も相手方等がその宅地建物を借りて引き続き居住することを目的とするものは対象になる、と明記されています。「売る会社と貸す会社を分ければ外れる」という理屈は通りません。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 物件 | 宅建業者の相手方等の居住の用に供されている宅地建物 |
| 契約の形 | 売買とその賃貸借が契約関係として不可分一体となっていること |
| 宅建業者の関わり方 | 売買の買主が宅建業者であるもの、または売買を宅建業者が媒介もしくは代理するもの |
| 時期・当事者 | 売買と賃貸借の締結時期が違っても、買主と貸主が同一でなくても、売買後も引き続き居住することを目的とするものは対象 |
| 対象外 | リースバック取引以外の宅地建物取引業 |
告げなければならない事項は、売買4項目・賃貸借15項目
中心になるのが宅地建物取引業法第47条第1号です。同号ニは「代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件」などで「宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について、故意に事実を告げない行為を禁じています。
ガイドラインは、リースバックでは売買の内容に加えて賃貸借の内容も「相手方等の判断に重要な影響を及ぼす事項」に該当すると整理し、具体的な事項を列挙しました。
| 項目 |
|---|
| 代金以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的 |
| 契約の解除に関する事項 |
| 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項 |
| 買戻し特約の有無及びその内容その他の相手方等が知らない場合に不利益となりうる事項 |
| # | 項目 |
|---|---|
| 1 | 当事者の氏名(法人は名称)及び住所 |
| 2 | 宅地の所在・地番その他特定に必要な表示、または建物の所在・種類・構造その他特定に必要な表示 |
| 3 | 宅地又は建物の引渡しの時期 |
| 4 | 契約の解除に関する事項 |
| 5 | 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項 |
| 6 | 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容 |
| 7 | 借賃の額並びにその支払の時期及び方法 |
| 8 | 借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額・授受の時期・目的 |
| 9 | 契約期間及び契約の更新に関する事項 |
| 10 | 定期借地権(借地借家法22条1項)や定期建物賃貸借(同法38条1項)、高齢者の居住の安定確保に関する法律52条1項の適用を受けるものにしようとするときは、その旨 |
| 11 | 当該宅地又は建物の用途その他の利用に係る制限に関する事項 |
| 12 | 敷金その他いかなる名義をもって授受されるかを問わず、契約終了時に精算することとされている金銭の精算に関する事項 |
| 13 | 管理が委託されているときは、委託を受けている者の氏名(法人は商号・名称)及び住所 |
| 14 | 租税その他の公課の負担に関する定めがあるときは、その内容 |
| 15 | 宅建業者が第三者に物件を譲渡する可能性及びその場合の賃貸借関係への影響/修繕費用の負担区分その他の相手方等が知らない場合に不利益となりうる事項 |
この一覧で目を引くのが、10番と15番です。10番は定期建物賃貸借かどうかを告げること。定期借家なら期間満了で終わり、更新ではなく再契約の話になります。15番は買った業者がさらに第三者へ売る可能性と、その場合に賃貸借がどうなるか。売り先が変わることを知らされていなければ、売主は家主が誰になるか分からないまま契約することになります。
ガイドラインは「列挙されている事項以外は告知を要しないということを意味するわけではない」とも書いています。さらに、相手方から関心や質問が寄せられた事項についても業務上一般に要求される通常の注意を用いて可能な範囲で調査し、告知することが必要としています。
違反したときに起きること
| 行為 | 抵触する条文 | 起こりうること |
|---|---|---|
| 列挙された事項を故意に告げない、事実と異なる説明をする | 法第47条第1号 | 監督官庁からの指示、業務停止命令、免許の取消し。法第79条の2により拘禁刑若しくは罰金刑、またはこれらの併科 |
| 列挙された事項を過失により告げない | 法第31条第1項(業務処理の原則) | 信義誠実義務に抵触するおそれ |
| 勧誘での断定的判断の提供、威迫、預り金の返還拒否など | 法第47条の2 | 監督官庁からの指示、業務停止命令、免許の取消し |
「故意でなければ問題ない」とは書かれていません。ガイドラインは、列挙した事項を故意に告げないことが第47条第1号に抵触するとしたうえで、過失により告げない場合であっても法第31条第1項に抵触するおそれがあると明記しています。
第31条第1項は「宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない」という条文です。「うっかり言い忘れた」も逃げ道になりません。
勧誘そのものにも線が引かれた
法第47条の2に関する部分では、禁止される勧誘行為が具体的に並んでいます。リースバックの相談で実際に問題になってきた行為が、そのまま名前を付けて挙げられています。
ガイドラインが挙げる禁止行為(法第47条の2関係)
- 利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供すること
- 将来の環境又は交通その他の利便について誤解させるべき断定的判断を提供すること
- 正当な理由なく、契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒むこと
- 勧誘に先立って、宅建業者の商号又は名称、勧誘を行う者の氏名、勧誘の目的である旨を告げずに勧誘を行うこと
- 契約を締結しない旨の意思(勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示したにもかかわらず、勧誘を継続すること
- 迷惑を覚えさせるような時間に電話し、又は訪問すること
- 深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法により困惑させること
- 契約を締結させ、又は申込みの撤回・解除を妨げるために威迫する行為
- 申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと
- 手付を放棄して契約の解除を行うに際し、正当な理由なく解除を拒み、又は妨げること
「考える時間をくれない」「断ったのに電話が続く」「預り金を返してくれない」。相談事例としてよく挙がってきた行為が、ここで条文の適用対象として整理されました。
義務ではないが「望ましい」とされた2つ
ガイドラインは、法に基づく義務として一律に整理するものではないと断ったうえで、相手方が十分な情報を得て意思決定できるようにする観点から、次の対応が望ましいとしています。
| 内容 | 意味 |
|---|---|
| 売買価額及び借賃の額の算定根拠に関する事項の説明 | いくらで買い取り、いくらの家賃にするのかを、どう計算したかを説明する |
| 借賃の額その他借主が負担することとされた代金と、売却により受領する代金との関係に関する説明 | 例として「売却代金が賃料等の何か月分に相当するか」が挙げられている |
| 告知事項を記載した書面の交付 | 相手方の理解促進を図る観点から望ましいとされている |
なお、売買の媒介等をする宅建業者については、脚注で法第34条の2第2項が参照されています。媒介契約の書面に記載する売買すべき価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないという既存の義務です。望ましい事項の一部は、媒介の場面ではすでに義務になっています。
利用する側が使える読み方
提示を受けたときに確かめる順番
- 賃貸借の契約の型を聞く
普通借家か定期借家か。ガイドラインの賃貸借15項目の10番は、定期建物賃貸借にしようとするときはその旨を告げる事項としています。 - 家賃の額と支払方法、更新の条件を書面でもらう
7番(借賃の額・支払の時期及び方法)と9番(契約期間及び契約の更新に関する事項)が告知事項です。 - 第三者への譲渡の可能性を聞く
15番に「宅建業者が第三者に物件を譲渡する可能性及びその場合の賃貸借関係への影響」が入っています。家主が変わるかどうかを先に確かめます。 - 算定根拠を求める
売買価額と借賃の額をどう計算したかの説明は「望ましい事項」です。断られたら、その事実込みで判断材料にします。 - その場で決めない
判断に必要な時間を与えることを正当な理由なく拒むのは、法第47条の2の禁止行為です。急かされること自体が判断材料になります。
これで解決しないこと
ガイドラインは告知と勧誘のルールを明確にしたものであって、価格そのものを規制するものではありません。買取価格が市場より低いこと、家賃が周辺相場より高いこと自体は、説明が尽くされていれば禁止行為にはなりません。
また、このガイドラインの対象は、居住用の宅地建物で、売買の買主が宅建業者であるか宅建業者が媒介等をするものに限られます。事業用の不動産や、宅建業者が関わらない個人間の取引は対象外です。契約後に「説明されなかった」と気づいた場合の救済も、ガイドラインではなく民法や消費者契約法の問題になります。
リースバックのガイドラインについてよくある質問
いつから適用されますか
令和8年(2026年)10月1日施行です。国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課が令和8年10月に「令和8年10月1日施行版」として公表しています。
すでに契約した人にも適用されますか
ガイドラインは、宅建業者が契約の締結について勧誘等をするに際しての行為を対象にしています。施行前に締結した契約そのものを遡って無効にする仕組みではありません。すでに契約していて説明に問題があったと考える場合は、契約書と受け取った書面を揃えたうえで、消費生活センターや弁護士に相談することになります。
重要事項説明で全部説明されるのではないですか
リースバックの賃貸について宅建業者が媒介等をする場合は、法第35条(重要事項の説明等)や第37条(書面の交付)など、賃貸の媒介等に通常適用される規定が適用されます。ただし、売買の買主が宅建業者で賃貸に宅建業者が関与しない形だと、賃貸側の重要事項説明が行われないことがあります。ガイドラインが第47条第1号で賃貸借の条件を告知事項として整理したのは、この隙間を埋めるためです。
事業用のリースバックにも適用されますか
されません。ガイドラインの対象は「相手方等の居住の用に供されている宅地建物」の売買とその賃貸借です。
相談はどれくらい増えているのですか
ガイドラインの脚注によると、全国の消費生活センター等への相談件数は令和4年度116件、令和5年度227件、令和6年度242件、令和7年度214件です。令和4年度から令和6年度にかけて2倍以上になり、令和7年度はやや減っています。
説明されなかったら契約を取り消せますか
ガイドラインは宅建業者への監督と罰則の枠組みを示すもので、契約を取り消す権利を直接定めるものではありません。故意に告げなかった場合は第47条第1号違反として指示・業務停止命令・免許取消しや、法第79条の2による拘禁刑・罰金刑の対象になりえますが、個々の契約の効力は民法や消費者契約法で判断されます。
ガイドラインと関係条文の出どころ
国土交通省「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(リースバックに関するガイドライン)」令和8年10月1日施行版(PDF)
仕組みそのものはリースバックとは、契約の型による違いはリースバックはやめた方がいい?で扱っています。重要事項説明の読み方はリースバックの重要事項説明、業者の免許の確かめ方は宅建業免許の確認方法にまとめました。
算定根拠の説明を求めるときは、1社だけで判断せず複数社から見積もりを取る方法と、リースバック会社の比較を併せて見てください。家賃の決まり方はリースバックの家賃相場、買取価格の決まり方はリースバックの買取価格で解説しています。














