リースバックを「家を売っても住み続けられる方法」として説明されると、売ったあとの立場が借主に変わることが実感しにくくなります。売却後のあなたは所有者ではなく賃借人です。そして賃借人としての保護は強い一方で、家賃を払わなくなった瞬間に、その保護の効き方が大きく変わります。この記事では、家賃を滞納したときに何が根拠になって出ていく話につながるのかを、民法と借地借家法の条文で確認します。
条文で確認できること
- 貸主から出ていってほしいと言うには、原則として正当の事由が必要です(借地借家法28条)。解約申入れから終了まで6か月かかります(同27条1項)。
- ところが家賃の滞納は債務不履行です。民法541条の解除は債務不履行を理由とするもので、正当の事由も6か月の期間も前提になっていません。
- 民法541条の解除には相当の期間を定めた催告が要ります。ただし「不履行が軽微であるとき」は解除できないという但し書きが付いています。
- 敷金は賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、債務額を控除した残額が返ってきます(民法622条の2)。滞納があれば、そこから引かれます。
- 借地借家法30条により賃借人に不利な特約は無効ですが、これは同節の規定に反する特約の話で、債務不履行解除そのものを封じるものではありません。
売ったあとのあなたは「借主」になる
リースバックは、自宅を売却してその買主と賃貸借契約を結び、賃料を払って住み続ける仕組みです。所有権は移転し、代わりに賃借権を得ます。賃借人の立場は法律で手厚く守られています。建物の賃貸借は、登記がなくても建物の引渡しがあれば第三者に対抗でき(借地借家法31条)、期間の定めがある契約は、期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨の通知がなければ同一条件で更新したものとみなされます(同26条1項)。
貸主の側から終わらせるには、ハードルがあります。借地借家法27条1項は「建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する」と定めます。さらに28条は、その解約申入れや更新拒絶について「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としています。

滞納すると、その保護の入口が変わる
ここが本題です。正当の事由と6か月という仕組みは、貸主の都合で終わらせようとする場合の話です。家賃の滞納は事情が違います。賃料を払うのは賃借人の債務であり、払わないことは債務不履行です。
民法541条は「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」と定めています。ここに正当の事由は出てきませんし、6か月という期間も出てきません。条文の構造として、別の入口が用意されているということです。
| 終わらせ方 | 根拠 | 必要なもの | 時間の目安 |
|---|---|---|---|
| 貸主からの解約申入れ | 借地借家法27条1項・28条 | 正当の事由 | 解約の申入れの日から6か月の経過 |
| 更新拒絶 | 借地借家法26条1項・28条 | 正当の事由と、期間満了の1年前から6か月前までの通知 | 期間満了まで |
| 滞納による解除 | 民法541条 | 相当の期間を定めた催告。不履行が軽微でないこと | 催告で定めた相当の期間 |
| 催告によらない解除 | 民法542条 | 履行拒絶の明確な表示など、条文が列挙する場合 | 直ちに |
民法541条には但し書きがあります。「ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」。1か月分の遅れがすぐ解除につながるわけではないのは、この但し書きがあるからです。軽微かどうかの線引きは条文に数字で書かれていません。実務では契約書の解除条項が基準として使われます。
契約書の「◯か月分以上の滞納で解除」という条項を、契約前に必ず読んでください。条文は「相当の期間を定めた催告」と「軽微でないこと」しか定めておらず、具体的な月数は契約で決まります。リースバックでは家賃の水準が買取価格とのトレードオフで決まるため、相場より高い家賃になっていることがあります。買取価格と家賃の関係を先に把握しておくほうが安全です。
払えなくなる前に動ける範囲
何か月分の滞納で解除と書かれているか。催告の方法(書面か内容証明か)も見ておく。
債務不履行が生じる前なら、支払方法の変更などの相談余地がある。滞納後は解除の条件が整っていく。
民法622条の2は、賃貸借が終了し賃貸物の返還を受けたときに残額を返すと定める。滞納中の家賃に自動で充当される仕組みではない。
買戻しの約束がある場合、滞納で契約が終われば行使できなくなることがある。条項の前提条件を読む。
敷金について、民法622条の2は「賃貸人は、敷金……を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」を挙げています。返還されるのは、出ていったあとに残った分です。滞納している間に「敷金があるから大丈夫」という理解は、条文の仕組みと合いません。
買戻しを前提にしている場合は、特に注意が必要です。買戻しの法的な位置づけはリースバックの買戻しはどこまで確実かで整理しています。賃貸借が解除で終われば、住み続ける前提が崩れます。
出ていくまでに何が起きるか
相当の期間を定めて支払いを求められる。民法541条が要求する手続き。
期間内に払わなければ、契約を解除する旨が通知される。
賃貸借が終了したことを理由に、建物の返還を求められる。
任意に明け渡さない場合は、裁判を経て強制執行という順番になる。
原状回復の負担も残ります。民法621条は「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」と定めています。通常損耗と経年変化は対象外です。この線引きはリースバック後の修繕・原状回復は誰の負担かで詳しく扱っています。
すでにトラブルになっている場合は、公的な相談窓口が用意されています。国民生活センターに寄せられている相談の内容はリースバックのトラブルで何が起きているかにまとめました。契約前であれば、重要事項説明でどこまで確認できるかもあわせて読んでおくと、確認すべき条項が絞れます。
よくある質問
家賃を1か月滞納しただけで追い出されますか
民法541条の但し書きは、催告で定めた期間を経過した時の債務不履行が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除できないとしています。1か月分の遅れが直ちに解除に結びつくわけではありませんが、具体的な線引きは条文に数字で書かれておらず、契約書の解除条項が基準になります。
貸主が出ていけと言うには正当事由が必要ではないのですか
借地借家法28条が正当の事由を求めているのは、同26条1項の更新拒絶の通知と、賃貸借の解約の申入れについてです。家賃の滞納を理由とする解除は民法541条にもとづく債務不履行解除で、この条文の適用場面とは別になります。
解約の申入れをされたら、いつ出ていくことになりますか
借地借家法27条1項は、建物の賃貸人が解約の申入れをした場合、賃貸借は解約の申入れの日から6か月を経過することによって終了すると定めています。ただし、この解約申入れ自体に正当の事由が必要です。
敷金を家賃の滞納分に充ててもらえますか
民法622条の2は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、敷金の額から賃借人の債務の額を控除した残額を返還すると定めています。返還時に差し引かれるという構造で、滞納中の家賃に自動で充当される仕組みではありません。
賃借人に不利な特約は無効だと聞きました
借地借家法30条は「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする」と定めています。対象は同節(建物賃貸借の更新・解約などの規定)に反する特約です。債務不履行による解除そのものを封じる規定ではありません。
催告なしで解除されることはありますか
民法542条は、債務の全部の履行が不能であるとき、債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときなど、条文が列挙する場合に催告なしで直ちに解除できると定めています。単なる支払いの遅れとは別の場面です。
原状回復はどこまで負担しますか
民法621条は、通常の使用及び収益によって生じた損耗と経年変化を除いた損傷について原状回復義務を負うとしています。さらに、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは義務を負わないという但し書きが付いています。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「借地借家法(平成三年法律第九十号)」第26条・第27条・第28条・第30条・第31条
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第541条・第542条・第621条・第622条の2














