先に要点
- 民法が定める「買戻し」は、売買契約と同時に特約しなければ成立しません(579条)。売ったあとで「やっぱり買い戻したい」と言っても、この制度は使えません。
- 買戻しの期間は10年を超えられません。これより長い特約を結んでも10年に短縮され、いったん定めた期間を後から延ばすこともできません(580条)。
- 返すのは「買主が支払った代金及び契約の費用」です。別段の合意をすればその金額になるため、いくらで戻せるかは特約の書き方で決まります(579条)。
- リースバックで案内される「買戻し」の多くは、民法の買戻しではなく再売買の予約など別の仕組みです。どちらなのかで、期間の上限も登記による対抗力も変わります。
リースバックを検討する人が最も気にするのが「あとで買い戻せるのか」です。ところが「買戻し」という言葉は、民法が定める制度を指す場合と、事業者が商品説明で使う一般的な意味で使われる場合があります。両者は要件も期間も違います。ここでは条文を引いて、確かめるべき点を整理します。
民法の買戻しは「売買契約と同時」でなければ成立しない
まず条文です。買戻しは民法第三編の売買のところに置かれています。
(買戻しの特約)民法第五百七十九条
不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第579条(2026年10月9日に条文を取得)

押さえるべきは3点です。第一に、特約は売買契約と同時でなければなりません。契約を済ませたあとに追加で結ぶことはできません。第二に、買戻しの性質は「売買の解除」です。あらためて買い直すのではなく、元の売買をなかったことにする構成になっています。第三に、返す金額は「買主が支払った代金及び契約の費用」が原則ですが、括弧書きで「別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額」とされています。
この括弧書きが実務では重要です。合意さえあれば、売った価格と違う金額を買戻し価格にできます。逆に言えば、合意がなければ買主が支払った代金と契約の費用を返すことになります。
期間は10年が上限。延長はできない
期間の定めも厳格です。
(買戻しの期間)民法第五百八十条
買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。
2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。
3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第580条(2026年10月9日に条文を取得)
| 特約の内容 | 実際に使える期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 15年と定めた | 10年 | 580条1項(10年に短縮される) |
| 10年と定めた | 10年 | 580条1項 |
| 3年と定めたあと延長したい | 3年(延長できない) | 580条2項 |
| 期間を定めなかった | 5年 | 580条3項 |
出典:民法580条の条文から整理した表です(e-Gov法令検索で2026年10月9日に条文を取得)。
実行の仕方にも条件があります。583条1項は「売主は、第五百八十条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない」と定めています。期間内に資金を用意できなければ権利は消えます。意思表示だけでは足りません。
さらに583条2項により、買主や転得者が不動産について費用を支出したときは、売主はその償還をしなければならないとされています。有益費については裁判所が相当の期限を許与できるとされていますが、必要費は償還の対象です。買主が修繕や設備更新をしていれば、その分も負担することになります。
登記すれば第三者にも主張できる
買戻しの特約は登記できます。これが効くかどうかで、買主が第三者に転売した場合の結論が変わります。
(買戻しの特約の対抗力)民法第五百八十一条
売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第581条第1項(2026年10月9日に条文を取得)
条文は「売買契約と同時に」登記したときと書いています。登記していなければ、買主が物件を別の人に売ってしまったとき、新しい所有者に買戻しを主張できません。契約書に買戻しの定めがあることと、それが登記されていることは別です。
なお581条2項は、この登記のあとに対抗要件を備えた賃借人の権利について、残存期間中1年を超えない期間に限り売主に対抗できると定めています。買戻しが実行されたときに、その間に入った賃借人がすぐには追い出されない仕組みです。
リースバックの「買戻し」は別の仕組みのことが多い
ここが本題です。事業者の案内で「買戻しできます」と書かれていても、それが民法の買戻しとは限りません。実務で使われる組み立てには、少なくとも次の違いがあります。
| 比べる点 | 民法の買戻し(579条〜) | 再売買の予約など別の仕組み |
|---|---|---|
| いつ決めるか | 売買契約と同時でなければならない | 契約と同時でなくても組める |
| 期間の上限 | 10年(延長不可) | 民法580条の制限は直接はかからない |
| 法的な性質 | 売買の解除 | あらためて売買する |
| 価格の決め方 | 買主が支払った代金+契約の費用。別段の合意があればその金額 | 特約で定めた価格、または定め方 |
| 第三者への対抗 | 売買と同時に登記すれば対抗できる(581条1項) | 予約の仮登記などを入れているかで変わる |
出典:左の列は民法579条・580条・581条・583条の条文に基づく整理です(e-Gov法令検索で2026年10月9日に条文を取得)。右の列は条文に根拠がある制度ではないため、個別の契約書の定めによります。
右の列を「条文で保証された権利」と読まないでください。再売買の予約は、何をどう書くかで内容が決まります。買戻し価格の算定式が書かれていなければ、そのときの時価や貸主の提示額で決まることになりかねません。契約書に数字か算定方法が書かれているかを、まず探してください。
契約前に確かめる項目
「買い戻せます」という説明を受けたら、言葉ではなく契約書の条項で確認します。
図:買戻しの条件で読む5か所
民法の買戻しか、別の仕組みか
「買戻しの特約」として売買契約と同時に定められているか。別の条項として「再売買の予約」と書かれているか。どちらかで期間の上限と対抗力の扱いが変わります。
価格が数字か算定式で書かれているか
「売却価格の○%」「売却価格に○円を加えた額」のように決まっているか。「別途協議」とだけ書かれている場合、価格は決まっていません。
いつまで行使できるか
民法の買戻しなら最長10年で、延長はできません。期間を定めなかった場合は5年です。別の仕組みなら、契約書に書かれた期間がそのまま効きます。
登記されるか
買戻しの特約は、売買と同時に登記してはじめて第三者に対抗できます。登記するかどうか、費用を誰が負担するかを確認してください。
買主が支出した費用の扱い
583条2項により、買主が支出した費用は償還の対象になります。別の仕組みでも同様の定めが置かれていることがあります。
図:どこで確かめるか
契約書の条項
口頭の説明ではなく、条項の見出しと本文を読みます。買戻しに関する定めが1か所にまとまっていない契約書もあります。
登記事項証明書
買戻しの特約が登記されていれば、登記記録に現れます。契約後に取得して、実際に登記されたかを確かめられます。
重要事項説明
2026年10月1日施行のガイドラインにより、賃貸借の条件を告げないことが宅地建物取引業法上の問題になります。説明の場で質問し、回答を書面で残してください。
国の資料
国土交通省は消費者向けの「住宅のリースバックに関するガイドブック」を公開しています。事業者の説明と突き合わせる基準になります。

契約の型そのものを比べたい場合は定期借家契約とはと終身建物賃貸借を、国の2つの文書の違いは国交省のリースバック文書は2つあるを参照してください。買取価格そのものの決まり方はリースバックの買取価格はどう決まる?で扱っています。
よくある質問
買戻しはいつまでに決めればよいですか
民法の買戻しは、売買契約と同時に特約しなければ成立しません(579条)。売却後に追加で結ぶことはできないため、契約の場で決める必要があります。
買戻しの期間に上限はありますか
あります。10年を超えることができず、それより長い特約を定めても10年になります。いったん定めた期間を後から延ばすこともできません(580条1項・2項)。
期間を決めなかったらどうなりますか
5年以内に買戻しをしなければならないと定められています(580条3項)。
買戻し価格はいくらになりますか
条文の原則は「買主が支払った代金及び契約の費用」ですが、別段の合意をすればその金額になります(579条)。実際の金額は契約書の定め次第です。
買主が家を転売したら買い戻せませんか
売買契約と同時に買戻しの特約を登記していれば、第三者に対抗できます(581条1項)。登記していなければ、新しい所有者には主張できません。
期限までにお金が用意できなかったらどうなりますか
583条1項は、期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ買戻しをすることができないと定めています。意思表示だけでは権利を保てません。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第579条・第580条・第581条・第583条(2026年10月9日に条文を取得)
- 国土交通省「消費者向けリースバックガイドブック策定に係る検討会」(2026年10月9日に表示を確認)














