「家をリースバックに出したい」と考えたとき、最初に決まるのは査定額ではありません。その家を、その人が売れる状態にあるかどうかです。名義が誰か、共有者がいるか、判断能力に不安のある人の住まいではないか、住宅ローンや借地の権利が絡んでいないか。ここでつまずくと、金額の話に進む前に取引が止まります。この記事では、家そのものの条件を法律の条文と公的機関の案内で順に確かめます。
この記事の要点
- 売買契約を結べるのは登記簿上の所有者本人です。家族が代わりに進めるには代理権が要ります(民法99条)。
- 共有名義の家を売るには、共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。持分の過半数では足りません。
- 実家の名義人の判断能力が落ちている場合、成年後見人が居住用不動産を売ったり貸したりするには家庭裁判所の許可が要ります(民法859条の3)。
- リースバックは売却と賃貸を同時に行う取引なので、その両方が許可の対象になります。
- 借地の上に建つ家は、建物を譲渡すると借地権も移るため、地主の承諾が必要です(民法612条1項)。承諾が得られないときは裁判所に代わる許可を求める道があります(借地借家法19条1項)。
- 面積・築年数・エリアの条件は業者ごとに違い、公表していない会社もあります。公表されていない数字をここに書くことはしません。
「家のリースバック」は、家の条件よりも先に人と権利で決まる
リースバックの相談が金額の話に進まないまま終わる典型は、次のどれかに当たっています。売ろうとしている人が名義人でなかった、共有者の1人が反対した、名義人の判断能力に不安があった、住宅ローンの残債が査定額を上回っていた、土地が借地だった。いずれも家の程度とは関係のない事情です。
| 確かめる対象 | 何を見るか | 根拠 |
|---|---|---|
| 名義 | 登記記録の所有者が誰か。複数いるか。 | 民法99条、251条1項 |
| 判断能力 | 名義人が後見・保佐・補助を受けていないか。 | 民法7条、9条、859条の3 |
| 住宅ローン | 抵当権が付いているか。残債と査定額の関係。 | 民法369条ほか |
| 土地の権利 | 自分の土地か、借地か。借地なら地主の承諾。 | 民法612条1項、借地借家法10条・19条 |
| 建物の形 | 戸建てか区分所有か。管理費・修繕積立金の扱い。 | 建物の区分所有等に関する法律 |
| 住み続ける条件 | 普通借家か定期借家か。何年住めるか。 | 借地借家法26条・28条・38条 |
この表の上から4行が、家そのものではなく人と権利の話です。仕組みの全体像はリースバックとは何かを国土交通省の定義から見る記事にまとめています。ここではその先、自分の家が対象になるかを確かめる部分だけを扱います。
売れるのは登記簿に載っている所有者
本人以外が進めるには代理権が要る
民法99条1項は、代理人がその権限内で本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に直接効力を生ずると定めています。裏返せば、権限のないまま家族が契約しても、本人に効果は及びません。親の家を子が窓口になって進める形は実際によくありますが、署名押印をするのは名義人本人か、委任を受けた代理人です。査定の依頼までは家族でもできますが、売買契約と賃貸借契約はそこが分かれ目になります。
共有名義は全員の同意が必要
民法 第二百五十一条第一項(共有物の変更) 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
共有物の管理に関する事項は持分の価格の過半数で決められますが(252条1項)、売却は持分そのものを手放す処分です。共有者の1人が反対すれば、その家は売れません。相続で兄弟の共有になっている実家では、この一点が最大の関門になります。共有者が所在不明の場合の裁判所の関与も含め、取れる道は共有名義の家はリースバックできるかで整理しました。
自分の持分だけを売ることは理屈のうえでは可能ですが、買った側は他の共有者と共有関係に入るだけで、家全体を使えるわけではありません。リースバックとして成立する形にはならないため、実務では扱われないのが通常です。
実家をリースバックに出すとき
親に判断能力があるなら、当事者は親
親が自分で契約内容を理解し判断できる状態なら、手続きは通常の売却と同じです。子が同席して説明を受けること自体に問題はありません。ただし契約の当事者は親なので、賃料の支払義務も親が負います。親の年金や収入で家賃を払い続けられるかを、契約期間の全体で見ておく必要があります。
判断能力が落ちているときは家庭裁判所が関わる
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人については、家庭裁判所が後見開始の審判をすることができます(民法7条)。成年被後見人の法律行為は取り消すことができます(9条)。つまり、後見が開始している人が単独で結んだ売買契約は、あとから取り消される可能性を抱えたままになります。
では成年後見人が代わりに売ればよいかというと、住まいについては別の条文が置かれています。
民法 第八百五十九条の三(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可) 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
条文が並べているのは「売却」と「賃貸」の両方です。リースバックは自宅を売り、同じ家を借りる取引なので、片方だけでなく両方が許可の対象になります。家庭裁判所はこの手続きを「成年被後見人(被保佐人,被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」として案内しています。

成年後見人は、本人の生活・療養看護・財産管理の事務を行うにあたって本人の意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮しなければならないとされています(858条)。住み慣れた家を手放す判断は、この条文が正面から当たる場面です。判断能力が不十分でも程度に応じて保佐・補助の制度があり、家庭裁判所の案内ページに手続きが並んでいます。

あらかじめ結んでおく任意後見契約
本人が判断能力のあるうちに結んでおく任意後見契約という仕組みもあります。裁判所の案内では、この契約について任意後見監督人を選任するための手続きが用意されています。将来の住まいの扱いをどうするかをあらかじめ決めておきたい場合の選択肢になりますが、契約の内容によって代理できる範囲が変わるため、締結時の条項の書き方がそのまま効いてきます。
ローンと土地の権利を先に確かめる
住宅ローンが残っている家
抵当権が付いたままでは、買主は所有権を安全に取得できません。決済時に売買代金で残債を返し、抵当権の抹消と所有権移転を同時に行うのが通常の流れです。したがって、査定額が残債を下回るオーバーローンの状態では、不足分を別に用意できない限り手続きが進みません。この段取りはリースバックと抵当権に順を追って書いています。返済が苦しい段階で検討しているなら、住宅ローンが払えないときの選択肢と並べて比べるほうが判断を誤りません。
借地の上に建つ家
土地を借りて自分の建物を建てている場合、建物を売ると借地権も一緒に移ります。ここで効くのが民法612条1項です。
民法 第六百十二条第一項(賃借権の譲渡及び転貸の制限) 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
地主の承諾が取れなければ、そのままでは進みません。ただし借地借家法19条1項が逃げ道を用意しています。第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないときは、裁判所が借地権者の申立てにより、承諾に代わる許可を与えることができます。裁判所は残存期間・従前の経過・譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮し(同条2項)、特に必要がないと認める場合を除いて鑑定委員会の意見を聴きます(同条6項)。
なお、借地権は登記がなくても、その土地の上に借地権者名義で登記された建物を所有していれば第三者に対抗できます(借地借家法10条1項)。建物の登記名義が本人のものになっているかは、早い段階で確かめておく価値があります。
相続の前に動くか、あとに動くか
実家の話では、名義人である親が生きているうちに売るのか、相続が起きたあとに売るのかで、必要な手続きがまるごと変わります。前者は親1人の意思で進みますが、後者は相続人の数だけ関係者が増えます。
親が名義人のまま売る
契約の当事者は親。判断能力があれば通常の売買と同じで、家賃の支払義務も親が負う。判断能力が不十分なら、成年後見人の選任と家庭裁判所の許可(民法859条の3)が前提になる。
相続が起きたあとに売る
遺産分割が済むまで、不動産は相続人の共有になる。売るには共有者全員の同意が要る(民法251条1項)。分割協議で1人の単独名義にしてから動くほうが早いことが多い。
登記が親や祖父母の名義のまま止まっている
相続登記を入れないと売却の手続きに進めない。2024年4月1日以降、相続により所有権を取得した者は、相続の開始と取得を知った日から3年以内に移転登記を申請する義務を負う(不動産登記法76条の2第1項)。
3年以内に分割がまとまらない
登記官に対し、相続が開始した旨と自分が相続人である旨を申し出る「相続人申告登記」で義務を履行したものとみなされる(76条の3第1項・2項)。その後に分割で取得したときは、分割の日から3年以内に移転登記を申請する。
相続登記の申請を正当な理由がないのに怠ったときは、10万円以下の過料に処するとされています(不動産登記法164条1項)。実家の名義が何代も前のままになっている場合、リースバックの可否を考える前にこの整理が必要です。
相続の前に売れば、相続財産は不動産ではなく現金と、賃借人としての地位に置き換わります。分けやすくなる一方で、家そのものを引き継ぐ選択肢は無くなります。どちらが良いかは家族の事情によるため、ここで一般論として勧めることはしません。
戸建てと分譲マンションで変わるところ
家の形によって、売ったあとに残る負担の形が変わります。所有権が移るので固定資産税は買主の負担に移りますが、区分所有の建物では管理費と修繕積立金という別の支払いがあり、これを誰が負担するかは賃貸借契約の書き方で決まります。
| 見る点 | 戸建て | 分譲マンション |
|---|---|---|
| 売る対象 | 土地と建物 | 専有部分と敷地利用権 |
| 売却後に消える負担 | 固定資産税・都市計画税、建物の修繕費 | 固定資産税・都市計画税、管理費・修繕積立金(契約で家賃に含める形が多い) |
| 建て替え・増築 | 所有者が変わるため、借主の判断だけではできない | 専有部分の変更も管理規約と所有者の承諾による |
| 管理組合 | ― | 組合員は区分所有者。売却で資格が買主へ移る |
| 土地の権利 | 所有か借地かで手続きが変わる | 敷地利用権は専有部分と分離して処分できないのが原則 |
物件の種類ごとの整理は戸建てのリースバックとマンションのリースバックにそれぞれ置いています。売った家を建て替えられるかどうかはリースバックで建て替えはできるかで扱いました。
面積や築年数の条件は、公表されている範囲でしか分からない
「築何年まで」「何平方メートル以上」といった受付条件は、会社によって公表しているところとしていないところがあります。公表していない会社の基準を推測して書くことはできません。確かめ方は単純で、各社の公式サイトに条件の記載があるかを見て、無ければ問い合わせるしかありません。条件を横並びで比べたいときは、同じ内容で複数社に出す方法をリースバックの相見積もりにまとめています。
相談先を選ぶ段階では、その会社が宅地建物取引業の免許を持っているか、行政処分歴がないかを国のサイトで確認できます。手順はリースバック業者の免許と行政処分歴を国のサイトで確かめる方法に書きました。実際に寄せられている相談の型は国民生活センターが公表した相談事例で確認できます。
確かめる順番
- 登記記録で名義と権利を見る
所有者が誰か、共有者がいるか、抵当権が付いているか、土地が自分のものか。ここが全部の出発点になる。
- 名義人が契約できる状態かを確かめる
後見・保佐・補助を受けていないか。受けているなら家庭裁判所の許可が要る(民法859条の3)。
- 共有者がいれば全員の意向をそろえる
1人でも反対すれば売れない(民法251条1項)。所在が分からない共有者がいる場合は裁判所の手続きを検討する。
- 住宅ローンの残債を金融機関に確認する
残債が査定額を上回れば、不足分の手当てがない限り決済できない。
- 借地なら地主に承諾の見込みを確かめる
承諾が得られないときは、借地借家法19条1項の許可を裁判所に申し立てる道がある。
- そのうえで複数社に同じ条件で査定を出す
売却価格と家賃はセットで決まる。片方だけを比べても意味がない。
- 賃貸借契約の種類と期間を確認する
普通借家か定期借家かで、何年住めるかが変わる。契約書と事前説明書面の両方を見る。
最後の項目は結果を左右します。更新の無い契約かどうかは定期借家契約とはを読んでから契約書を見ると、どこを確認すればよいかが分かります。
よくある質問
親名義の実家を、子の判断で売れますか
売れません。契約の当事者は名義人である親です。子が手続きを進めるには代理権が要ります(民法99条)。親の判断能力が不十分な場合は、成年後見人が選任されたうえで、居住用不動産の処分について家庭裁判所の許可を得る必要があります(859条の3)。
夫婦の共有名義でも利用できますか
共有者全員が同意すれば可能です(民法251条1項)。持分の割合にかかわらず、1人でも反対すると売却できません。
住宅ローンが残っていても相談できますか
できます。決済時に売買代金で完済し、抵当権を抹消するのが通常の流れです。残債が査定額を上回る場合は、不足分をどう手当てするかが先の話になります。
借地に建つ家は対象になりますか
地主の承諾が得られれば可能です(民法612条1項)。承諾が得られない場合でも、裁判所に承諾に代わる許可を申し立てる道があります(借地借家法19条1項)。
築年数が古い家でも受け付けてもらえますか
会社によります。受付条件を公表している会社もあれば、公表していない会社もあります。公表されていない基準を外から推測することはできないため、条件を示している会社の記載を読み、示していない会社には直接尋ねる形になります。
この記事で確認した一次情報
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)7条・9条・99条・251条・252条・612条・858条・859条の3:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成十六年法律第百二十三号)76条の2・76条の3・164条:https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- e-Gov法令検索「借地借家法」(平成三年法律第九十号)10条・19条・26条・28条・38条:https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 裁判所「成年後見制度に関する審判」(審判手続一覧に居住用不動産の処分についての許可):https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_02_2/index.html
- 裁判所「後見ポータルサイト」:https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/index.html
- 国土交通省 報道発表資料「住宅のリースバックに関するガイドブック」を公表しました(令和4年6月24日):https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000174.html














